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学生のレポート「水平な水兵」
『水平な水兵』は一見するとボロボロのセーラー服を着た人間の少女のようにも見えるが、アンデッド系の魔物である。 出現地域は沿岸部~海洋上と言った海のエリアで、主に被害を受けるのは漁船や貨物船といった船に乗っている船乗りたちだ。当該職業は女性が少ないのもあり、『水平な水兵』は男性をターゲットにして精気を吸い取るものとして知られている。 昼の時間帯に現れる事はまずなく、日没後~日の出までの夜の時間に遭遇する可能性がある。現れる場合は「幽霊船のようなボロ船とともに漂流している」パターンや「一人夜の港をさまよっている」パターンがあり、どちらも声を掛けてしまいやすい。そして話をしてしまうと『水平な水兵』の術中にはまるという訳だ。 『水平な水兵』に声を掛けた被害者はいつしかこの少女の姿をした魔物に母性のようなものを感じるようになり、保護するつもりで声をかけたのに逆に甘やかされている状況に陥る。頭を撫でてもらったり、膝枕で子守唄を歌ってもらったりするうちに心を許してしまうと、『水平な水兵』はその心の隙間に付け入り精気を吸いとってしまうのだ。その後、朝になるとすっかり干からびた様子の被害者が見つかる。だがその死に顔はとても安らかだという。 まるで生者をあの世に引きずりこむ少女の霊のように思える『水平な水兵』は実は「元々はかつて海で死んだ少女の魂」ではないという説が濃厚だ。初めて目撃された時期にあった水難事故を遡ると、とある男所帯の海賊船が嵐により沈んだ出来事に行きあたる。後に発見された彼らの航海日誌によると、彼らが沈みゆく船の中で最後に求めた物が「バブみ」だったらしく、どうやら彼らのその無念がこのような少女の姿の魔物へと変わったらしい。『水平な水兵』の行動にもあてはまるこの説が有力視されている。 ちなみに名前の『水平』というのは、前髪が水平線のようにぱっつんと切られているという髪型の特徴かららしい。体の一部がストンと水平である事とは無関係なので、間違えないようにしよう。
