【長編03】いざ豪華客船クィーン・シズムンドへ

●SIDE:早渚凪 パーティーの当日、夕方に港に着くとそこには想像よりも大きな船舶が。ネットの写真で見るよりすごい迫力だ。 「確か、瑞葵ちゃんと向日葵ちゃんは近くのカフェで私を待っているはずだよな」 マップアプリを頼りに店に向かうと、そこには着飾った瑞葵ちゃんと向日葵ちゃんが。お嬢様然とした瑞葵ちゃんに対し、スタイリッシュにキメた向日葵ちゃんとその恰好は対照的でしたが、どちらもとても似合っています。 「二人とも、お待たせ。ナンパとかされなかった？」 「大丈夫ですよ、さっきまでお父さんが一緒だったので」 ・・・あと一歩早かったら私も危なかった。ひやひやするなぁ。船内で瑞葵ちゃん達と一緒にいる時に見つからない事を祈ろう。 「それじゃ、そろそろ行きましょう。凪さん、手を繋いでもらえますか？」 「もちろん」 「あ、私もお願いします。船に乗るまでの男避けとして頼らせて下さい」 私は鈴白姉妹に左右それぞれの手を握られてカフェを出ました。道行く男が静かな殺意を込めた目で私を見ているのを感じます。でもそれは船の前に着けばもう無くなりました。ここにはもっと嫉妬の目で見られるようなセレブ勢が揃っていますからね。 「そう言えば金剛院さんって、このパーティーに参加したりしないんでしょうか？」 「私は聞いてないなぁ。色々忙しい人だからね、晶さんも。いるかも知れないけど、同じくらいいない可能性も高いなぁ」 ちょっと電話して聞いてみようかとも思いましたが、今日はそもそも瑞葵ちゃんと一緒に過ごすつもりでここに来ているのだし、忙しいかもしれない相手にわざわざつまらない用事で電話するのも良くないと考え直しました。その後は乗船する人々の列に並び、招待状を見せて豪華客船『クィーン・シズムンド』に足を踏み入れる私達。中は金剛院邸と同じような装飾がされており、高級感がありつつも悪趣味ではない程度の内装。金剛院邸で慣れていなければ、非日常感がもっと凄かったんだろうな。 「さぁ凪さん、会場の方へ向かいましょう。楽しい一夜になるといいですね♪」 「そうだね瑞葵ちゃん、今日はありがとう。・・・向日葵ちゃん、なんかごめんね？目の前でイチャついて」 「今更ですよ。私もその内いい男捕まえるんで、心配しないで下さい」 そう言ってくれる向日葵ちゃん。でも一応、彼女の様子も気にしておかないとな。 「あ、そうそう凪さん。おねーちゃん、最近気になる・・・」 「（ギロッ）」 「き、木になるのがマイブームらしいですよ？」 「えっ！？コスプレでって事！？正直学芸会みたいなのしか思い浮かばないけど・・・なんか向日葵ちゃんの事だからかくれんぼバラエティ番組レベルの超リアルなやつとか？」 驚いている私の前で、向日葵ちゃんが無言で瑞葵ちゃんをつねり上げています。仲いいなぁこの姉妹。 そして程無くしてゲストが乗り込み終わり、客船は港を離れて近海巡行を始めました。 ●SIDE:金剛院晶 屋敷の執務室で今後の会社運営の方針を計画していたわたくしの元に、相談があるという一通の電話が取り次がれました。お相手は宿城の一件でお世話になった私立探偵の江楠さんです。 「江楠さん、ごきげんよう。わたくしにご相談があるとお伺いしておりますが」 「金剛院サン、どうもすまないねェ。実は今日、早渚君がクィーン・シズムンドなる豪華客船上で行われるパーティーに参加するようなんだがねェ、君は聞いていないかい？」 クィーン・シズムンドと言えば、最新鋭の豪華客船でしたわね。確か我が金剛院グループにも船上パーティの招待は来ているとお父様がおっしゃっていましたが、あいにく都合がつかず見送ったはず。 「早渚さんがそれに招待されているというのは存じ上げませんでしたわ。わたくしも参加は見送らせていただいておりますので、金剛院グループの関係者は誰も現地におりません」 「そうか、参ったねェ。実は、テロリンがその船をターゲットにテロ行為をする可能性が払拭できなくてねェ。早渚君には一応、テロが起きても自力で逃げれるような備えはしておくよう忠告のメールはしたんだが、もし金剛院サンの関係者がいるなら協力を仰ぎたかったんだ。しかし、参加してないなら無理は言えないねェ」 テロリン。この町で爆弾騒ぎを起こしただけでは飽き足らず、またも日本でテロを行おうというのですか。しかも、早渚さんが巻き込まれる可能性があるとなれば、指をくわえて見ている訳にはいきませんわね。 「いえ、桜一文字を現地に向かわせますわ。何も無ければ後から取り返しはつきますが、人の命は取り返せませんもの。江楠さん、情報提供ありがとうございます。桜一文字の方から折り返し連絡をさせますので、その後は桜一文字と連携を取っていただけますかしら」 「ああ、そりゃあ助かるねェ。では連絡を待っているよ」 江楠さんとの通話を終え、わたくしはすぐに桜一文字を呼びつけました。 「お嬢様、急用って何ですかね～？」 「桜一文字、気を引き締めなさい。テロリン絡みの案件の可能性がありますわ」 テロリンの名前を出した途端、桜一文字の目が鋭く真剣な光を放ちました。 「今夜行われる『クィーン・シズムンド世界一周クルーズ　特別寄港船上パーティー』において、テロリンがテロ行為を行う可能性があると江楠さんから連絡がありました。そのパーティーには早渚さんの出席が予定されておりますわ。江楠さんに連絡を入れて連携し、可能な限り人的被害を食い止めなさい」 「かしこまりました」 桜一文字は素早くスマホで江楠さんに連絡を入れつつ、退出していきました。対象の規模から考えると、恐らくは爆破テロ。そうなれば被害者ゼロは不可能ですが、それでも可能な限り人的被害を減らさなくては。 「早渚さん・・・どうか、無事のお戻りを・・・」 夕闇に包まれた空は、いつもと違いどこか不気味で不安を煽る暗さを湛えているように見えました。