ゾンビに襲われて八重歯が生えてきたエルフたち

「八重歯(キバ)の戦士」 「くっ、この歯はなんということか!」 エルフの戦士アーヤは、鏡の前で口をあけていた。昨日、森でゾンビに噛まれたせいか、上の前歯が異様に伸びているのだ。 「冗談、顔だけにしろよ」 相棒の魔法使いベルは呆れ顔で言う。 「ふぅん、恋と一緒だな」 「何がだよ!この歯の話と恋愛が関係あるわけ?」 アーヤはベルのつっこみを無視し、歯を見つめながら独り言をつぶやく。 そのころエルフの国は、ゾンビの襲来に悩まされていた。アーヤとベルはゾンビ討伐の特別部隊に配属されるが、アーヤの歯の異変は部隊の足手まといになりかねない。 「部隊を辞めろ!その歯では戦えない!」 司令官に怒鳴られても、アーヤは聞く耳を持たない。 「歯が伸びたくらいで、戦えなくなるわけがない!」 一方、エルフの歯科医ミーアは、ゾンビの唾液が原因ではないかと推測していた。 「君の歯は完全にゾンビ化している。もう手遅れだ」 ミーアの宣告にアーヤは呆然とする。 「私、本当にゾンビになっちゃうの?」 「そうだな。君もうすぐゾンビの一員だ。仲間入りだ」 涙を流しながらミーアを見るアーヤ。 ベルが駆けつけ、アーヤを励ます。 「大丈夫だよ。治療法を見つけるから。必ず元に戻す!」 そう言うベルに、アーヤはふと思い当たる。 「あっ、そうだ!私、ゾンビじゃない」 「え?」 ベルが訝しげに聞く。 「前歯が伸びただけじゃない。全部の歯が伸びている!」 アーヤが力いっぱい口をあける。すると、見事な八重歯がギラリと光る。 「私、八重歯(キバ)の戦士なんだ!」 そう宣言すると、アーヤの髪が金色に輝きだした。 エルフの伝説に語られる、八重歯の戦士の力が目覚めたのだ。アーヤはゾンビ軍団を叩き潰し、エルフの国は平和を取り戻した。 その日から、アーヤは八重歯(キバ)の戦士としてエルフの小さい子どもたちに歯の大切さを伝えるようになった。子どもたちはみんな、アーヤのきらきらとした八重歯が大好きだった。 #エルフ #コメディ #ファンタジー