星降る舞台で
私は茜(あかね)。名前の通り、赤い髪が特徴の芸者です。髪は少し波打つようにまとめられ、金と赤の簪や花飾りで彩られています。これらは季節を映す舞台衣装のようで、今宵の私を照らす光にその美しさを際立たせていました。漆黒の着物には赤と金の刺繍がほどこされ、満開の椿や牡丹が咲いています。帯にはまるで朝焼けのようなグラデーションがあり、その中央で結ばれた大きなリボンが背中を軽く押してくれるような気がします。 私は今、とある屋敷の舞台に立っています。障子越しに差し込む月明かりが柔らかい影を作り、蝋燭の揺れる灯りが着物の光沢をまるで水面のように映し出しています。この舞台は昔から語り継がれる「星明かりの宴」の場。今夜、私はその主役として踊りを披露し、宴の謎に触れる運命です。息を飲むような静けさの中、客人たちは私の一挙手一投足を見つめています。 踊りが始まると同時に、心の奥深くから懐かしい記憶が呼び覚まされました。私は幼い頃からこの道を歩むよう定められていました。初めて手にした扇子の感触、慣れない下駄の音、師匠の厳しい叱責。それでも私は芸者という存在が持つ美しさに憧れ、この道を選びました。けれども、ここ数年、私はその意味を問い続けています。時代が変わり、芸者という存在が必要とされなくなりつつある今、自分が未来に何を残せるのか分からなくなったのです。 「この踊りには特別な力があるのです」 そう囁いたのは、この宴を取り仕切る老女でした。彼女は続けてこう言いました。「踊りを捧げるとき、あなたの心がどれだけ純粋であるかで未来が見えるかもしれません。」私はその言葉を信じ、今この場に立っています。 踊りは、私にとって言葉以上の表現手段です。扇子を広げるたびに、まるで星の光が散りばめられたかのような錯覚を覚えます。月明かりが私の髪を透かし、赤い光が舞台に踊る。背後に揺れる大きなリボンは風を纏い、観客の中にため息を生み出しているようでした。私は踊りながら、ふと母の言葉を思い出しました。 「美しさというものは、一瞬だからこそ輝くのよ。茜、あなたもその瞬間を信じて生きなさい。」 その瞬間、不思議な光景が目の前に広がりました。まるで空間が裂けるように、光の帯が私を包み込みます。見えたのは、未来の私でした。そこにはもう芸者ではない私が、違う世界で微笑んでいます。それは普通の女性として幸せに暮らしている私。手には何かの楽器を持ち、自由に生きている姿でした。 踊りが終わると、現実の舞台に戻りました。拍手の音が聞こえ、ほっとしたものの、心の中は不思議な感覚で満たされていました。あの未来は本当に私なのか、それとも踊りによって見せられた幻なのか。客人たちの称賛の声が耳に届きながら、私はひとつの確信を得ます。 芸者という道を進むことも、そこから離れることも、私自身の選択に委ねられている。伝統は重く、美しいものだけれど、それをどう未来へ繋ぐかは私次第だと。 宴のあと、私は静かな廊下を歩きながら空を見上げました。夜空には満天の星が輝いています。芸者という舞台で培った私の美しさは、きっとどんな未来に進んでも輝き続けるはずだと、そう信じています。 「ありがとう、星たち。」小さく呟いて、私は未来へ一歩を踏み出しました。
