叔母と夏
「昔はよく夏休みになったら、この海に来てたなぁ」 叔母が楽しそうに喋っているけど、僕は気が気じゃなかった。何せ、今日はふたりきりだ。両親にも妹にも内緒で来ている。 「お、どうした~? 私の水着姿に見とれてる?」 本音を言うとそれもあるけど、僕はこの状況をどうすればいいのかわからずにいた。のんきにはしゃぐ気にもならない。 「叔母さん、なんで今日はふたりなの?」 「……そうねぇ」 太陽の光が砂を焼き続け、その熱がじんわりと身体中に沁み込んでくるのがわかる。 「ただのワガママかな」 叔母がハンモックの上からピースサインをしている。心臓の鼓動が聞こえだす。 「またおにいちゃんに怒られちゃうかな?」 叔母はこうやって僕を……僕だけを連れ出すことがあった。ショッピングや映画を楽しんで、帰ると叔母は両親に小言を言われるのがオチだった。 でも今日は、いつもとなんだか違う気がする。一緒に海に来たことはなかったし、それに……。 「……私と一緒にいるのは楽しくない?」 「ううん、そんなことない!」 それは本心だ。叔母と一緒にいるのは楽しい。でも、僕の気持ちはそれだけじゃないような気がしていた。叔母はどう思っているんだろう。 「ありがと。ほら、こっちおいで」 「えっ、でも」 「気にしないの。……でも、お父さんとお母さんにはナイショね」 ハンモックは狭く、叔母と密着する形になってしまった。叔母の呼吸や心音まで聞こえてくる。 「照れてる?」 「うん……」 「すぐに慣れるよ……」 不意に、ハンモックが大きく軋む。僕の顔に大きな影が落ちて、僕は目を閉じた。
