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迷宮教室のヘッドフォン・エルフ

2025年08月28日 16時10分
使用モデル名:NovelAI
対象年齢:全年齢
スタイル:リアル
デイリー入賞 148
参加お題:

放課後のざわめきが満ちる教室の片隅。そこに、異質な静寂を纏う一人の生徒がいた。 彼女の名前はイヤリエル。長く尖った耳と、月光を溶かし込んだような銀の髪を持つ、エルフの女戦士。もっとも、剣を握るべきその手は今、スマートフォンのプレイリストを操作し、その美しい耳は物々しいヘッドフォンで覆われている。外界のノイズを遮断し、彼女だけの聖域を構築するためだ。 「ねえ、イヤリエルさん」 不意に、影が落ちた。見上げると、クラスのカースト最上位に君臨するイケメン、佐藤健人(さとうけんと)が爽やかな笑顔を浮かべていた。女子生徒たちの羨望の視線が突き刺さる。 「いつもヘッドフォンしてるけど、何聴いてるの?」 イヤリエルはヘッドフォンを少しずらし、碧色の瞳で彼を見つめた。 「OZZYだよ」 「お、おじー?」 「そう。オジー・オズボーン」 「へー、誰それ。なんかのお爺さんの民謡?」 「……ブラック・サバスのボーカルと言えば、分かりやすいかな」 「ブラック……?ごめん、知らないや。じゃあね」 佐藤くんは興味を失ったように、あっさりとその場を去っていった。取り残されたイヤリエルは、ふん、と鼻を鳴らし、再びヘッドフォンのボリュームを上げた。メタルの神々の咆哮が、俗世の雑音をかき消していく。 その時だった。 「あ、あの……!」 今度は、さっきとは全く質の違う影が彼女を覆った。恐る恐る顔を上げると、そこに立っていたのは、クラスでも目立たない存在の猪俣譲二(いのまたじょうじ)だった。お世辞にも整っているとは言えないその顔は、緊張と期待で奇妙に引きつっている。 「オジー、好きなんだ? オジー・バンドのギタリストでは、誰が一番好き?」 予想外の質問に、イヤリエルの目がわずかに輝いた。 「別にみんな好きだけど……。トム・モレロ以外なら」 「なんで?」 猪俣くんは食い気味に尋ねた。 「オズフェスジャパンで『ミスター・クロウリー』のソロを、なんであんな風に弾いたのか問い詰めたいよ。」 「ああ、分かる! アレンジしすぎてたからね。あれはもはやトム・モレロの曲だった」 イヤリエルが拳を握りしめると、猪俣くんは大きく頷いた。 「やっぱり、オジー・バンドと言えば初代ギタリスト、ランディ・ローズは神だよね!」 「もちろん! 彼のクラシカルな旋律は、エルフの森で奏でられる古謡にも通じるものがある。繊細で、構築美があって……。まさにギターを弾くために生まれてきた貴公子だよ」 「『Crazy Train』のリフの切れ味もさることながら、『Diary of a Madman』のソロなんて、狂気と様式美の融合の極致だ! あんなギター、後にも先にも彼しか弾けない!」 「そうなの! ランディのギターソロは、たとえ短くても完璧に構成されてる。まるで一編の叙事詩だよ。恋と一緒だな」 猪俣くんは「恋…?」と一瞬フリーズしたが、すぐに気を取り直して話を続けた。 「じゃあ、二代目のジェイク・E・リーはどう?」 「ジェイクも好きだよ! 『Bark at the Moon』のイントロを初めて聴いた時、私の心臓が月に吠えたもん。タッピングとハーモニクスを織り交ぜた、あの攻撃的なリフ!」 「分かる! あの独特のビブラートと、ちょっと斜に構えた感じのステージングがたまらない。ランディの後任っていうとてつもないプレッシャーの中で、自分のスタイルを確立したのは本当に尊敬する。ブルージーな一面もあって、テクニックも華もあるギタリストだよね」 「そうそう。髪を逆立てて、腰を低く落として弾く姿は、獲物を狙う森の黒豹みたいでカッコいい」 二人の会話は、誰にも止められないギターソロのように加速していく。 「そして、忘れてはならないのが三代目のザック・ワイルド!」 猪俣くんが唸るように言うと、イヤリエルは目を閉じて恍惚の表情を浮かべた。 「ザックはもう、音の圧が違う。彼のピッキングハーモニクスは『キュイーン!』じゃない。『ギャイーーーン!』って感じ。森の巨木を根こそぎなぎ倒す、オークの雄叫びだよ」 「まさにそれ! ペンタトニックスケールを主体にした超高速のチキン・ピッキングは、力こそパワーを体現してる。特にライブでのアドリブは圧巻だ。まるで野生の猪が猛然と突進してくるような、制御不能の迫力がある!」 猪俣くんは興奮のあまり、自分の名字を彷彿とさせる猪のジェスチャーをした。 「あなたの名字も猪俣だし、なんだか親近感が湧いちゃうんじゃない?」 イヤリエルがくすくすと笑いながら指摘する。 「冗談、顔だけにしろよ。……まあ、ザックのパワフルさは好きだけどね。じゃあ、比較的最近のガス・Gは?」 「ガスはね、ギリシャ出身だけあって、パルテノン神殿の柱みたいに正確無比なプレイをするよね。ミケランジェロが彫刻を彫るみたいに、一音一音を完璧な場所に配置していく感じ。寸分の狂いもないシュレッディングは、聴いていて安心感がある」 「まさにモダン・ヘヴィメタルの技巧派って感じだ。ランディのようなドラマ性、ジェイクのような華、ザックのような野生味とはまた違う、理知的でクールなかっこよさがあるよな」 「うんうん! 結局、どのギタリストも個性的で最高! つまり、オジーのギタリストを見出すセンスが神がかってるんだよ!」 「間違いない!」 猪俣くんとイヤリエルは、固い握手を交わした。クラスの誰もが、あの孤高のエルフと、陰キャの猪俣くんがこんなにも楽しそうに話している光景を信じられないといった顔で見ている。 ひとしきり語り尽くし、満足感に包まれた猪俣くんは、人生最大の勇気を振り絞ることにした。 「あのさ、イヤリエルさん! 俺たち、すっごく気が合うと思うんだ! 今度、一緒にライブとか行かない?」 頬を赤らめ、期待に満ちた瞳でイヤリエルを見つめる猪俣くん。 彼女は数秒間、彼を見つめ返して言った。 「えー、私、佐藤くんが好きだから、無理~」 その一言は、どんなディストーションサウンドよりも激しく、猪俣くんの心を粉々に打ち砕いた。 午後の授業の開始を告げるチャイムの音も、今の彼には遠く、遥か彼方の銀河で瞬く星々の囁きのようにしか聞こえません。 教室の窓の外では、春の柔らかい日差しを浴びて、名も知らぬ白い雲が、まるで彼の砕け散った純情を慰めるかのように、ゆっくりと、そして悠然と西の空へと流れてゆきます。 彼女の銀色の髪を揺らす教室の風は、甘く、そして残酷なヘヴィメタルのリフのように、彼の耳元をただ虚しく吹き抜けていきました。 彼の短い恋のフライトは、今、終わりを告げたのです。彼の心のキャンバスに、一筋の飛行機雲が、長く、長く尾を引いておりました。

コメント (6)

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2025年08月29日 13時04分
五月雨
2025年08月29日 12時30分
Jutaro009
2025年08月29日 10時51分
BBぼるてっくす
2025年08月29日 03時10分
もぐっちー(mogucii)
2025年08月28日 21時45分
謎ピカ
2025年08月28日 19時35分

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いいねコメントありがとうございます。忙しくなって活動を縮小しています。返せなかったらすみません。

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