お題「ドクター」
暗い部屋の中、培養液に沈んだ“それ”は、静かな泡に包まれてゆっくりと揺れていた。 白衣のポケットに両手を無造作に突っ込んだ“ドクター”と呼ばれる男が、狂気を湛えた瞳でこちらを振り向く。 「倫理、だと?──今の時代ではグレーかもしれない。だが未来の人類は、私を喝采と賛辞で迎えるだろう。 その時代に、私がいないことだけが唯一の心残りだ。」 ゴポッ──大きな泡が一つ弾け、培養液の中で白い羽根がふわりと揺れた。 タンクの奥に浮かぶ半身だけの天使が、うっすらと瞳を開けて、虚空の闇を静かに見つめていた。
