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昼休みの集合サイン
昼休みの通勤路は、すでに雪がやんでいた。 除雪された歩道の脇に残るのは、溶けかけた雪と、踏み固められた足跡だけだ。 ブロント少尉は、その中で足を止めた。 植え込みの縁に、朝に見たものがまだ残っている。 耳が少し崩れ、片目の赤い実が落ちかけている雪うさぎ。 「……残っていましたか」 少尉は静かに前へ進み、歩道の端に立った。 昼休みの外出ではあったが、服装はいつも通りだ。 黒の軍服、ミニのプリーツスカート。 軍用の編み上げ半長靴に、ニーハイソックス。 そして帽子。 その左側には、明らかに公式支給ではない部隊章が付いていた。 盾形。灰色と青の寒色系。 雪の中を跳ねる白いウサギ、その下に刻まれた文字。 BRIZ 少尉は帽子を被り直し、姿勢を正す。 背筋を伸ばし、踵を揃え、視線を前に。 動作は教本どおり、寸分の迷いもない。 そして、溶けかけの雪うさぎに向かって―― 敬礼。 真剣そのものだった。 その少し後ろ、若菜少尉は一歩引いた位置で立ち止まっていた。 同じ軍服、同じミニのプリーツスカート。 だが黒タイツに革靴、柔らかいシルエットのコート。 年上だが、見た目はずっと幼く見える。 彼女は何も言わず、ただ眺めていた。 雪うさぎに敬礼する年下の先輩。 帽子には、どこで作ったのか分からない部隊章。 (……昼休み、ですよね) だが、止める理由は見当たらない。 ブロント少尉は、敬礼を解き、満足したように小さくうなずいた。 「集合サイン、確認しました」 誰に向けた報告なのかは分からない。 若菜少尉は、口元にかすかな笑みを浮かべた。 「……了解です、少尉」 その言葉に、ブロント少尉は一瞬だけ振り向き、 「はい」 と、当然のように返事をする。 二人は再び歩き出す。 背後で、雪うさぎは静かに形を崩し始めていた。 だが、ブロント少尉の中では、すでに結論は出ている。 ――寒冷地専用部隊。 ――ブリズ・ラビット。 ――集合、完了。 昼休みは、まだ少し残っていた。
