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エルフはハーフパイプで恋をしない

2025年09月03日 16時11分
使用モデル名:NovelAI
対象年齢:全年齢
スタイル:リアル
デイリー入賞 137

コンクリートが焼ける匂いと、ウレタンウィールが地面を削る甲高い音が支配する空間。そこは、街の不良ども……いや、今風に言えばストリートカルチャーを愛する若者たちの聖地、通称『スネークピット』と呼ばれるスケートパークだ。 パークの入り口に、場違いな影が落ちた。 陽光を反射して白銀に輝くプレートアーマー。背には彫刻のように美しい長剣。そして何より、柳のようにしなやかな身体から伸びる、天を指すかのように尖った長い耳。陽の光を透かすその耳は、彼女が人間でないことを雄弁に物語っていた。 腰まで届くプラチナブロンドの髪を風になびかせ、エメラルドグリーンの瞳でパークの中を睥睨するその姿は、まるでファンタジーの世界から迷い込んできたかのようだった。 彼女――オーリエル・ウィールスピンは、取り巻きの中心にいる男を真っ直ぐに見据えると、鈴の鳴るような、しかし有無を言わせぬ力強い声で言った。 「貴様が、この地を統べるスケボーキング、スズキか?」 パークの喧騒が、ぴたりと止んだ。誰もがポカンと口を開け、異世界からの来訪者を見ている。 男は一瞬戸惑ったが、美女からの注目に気分を良くしたのか、ニヤリと笑ってデッキの先端を足で弾いた。 「さぁな。俺に何か用かい、お嬢ちゃん? 」 「問答に答える気はないか。ならば良い」 オーリエルは男の軽薄な態度を意にも介さず、静かに続けた。 「バトルスケボーで勝負しろ」 「……は?」 男の眉がひそめられる。取り巻きたちも顔を見合わせた。 「バトルスケボー? 何だよそれ。普通、『スケボーバトル』って言わねえ? ハーフパイプでどっちが高く飛べるか、とか、トリックの点数を競うやつだろ?」 「いや」 オーリエルはきっぱりと首を横に振った。 「私が言っているのは『バトルスケボー』だ。ボードに乗ったまま、その身に宿した武器で雌雄を決する、エルフの森に古くから伝わる神聖な儀式だ」 「エルフの森にスケボーあんのかよ!」 取り巻きの一人が突っ込むが、オーリエルの真剣な眼差しの前では、その声もむなしく響くだけだった。 「では、行くぞ!」 オーリエルがそう宣言すると、彼女の足元にどこからともなく、ミスリルで出来たかのように鈍く輝くスケートボードが現れた。デッキには世界樹を模したような緻密な文様が刻まれている。 「ちょ、待てよ! 話聞けって! ルールも何もわかんねえし!」 慌てて制止しようとするが、オーリエルは聞く耳を持たなかった。 「問答無用!」 彼女はひらりとミスリルのボードに飛び乗ると、まるで氷上を滑るように、音もなく迫ってきた。その滑りは、重力を感じさせないほどに優雅で、そして恐ろしく速かった。 「うおっ! マジかよ!」 男も反射的に自分のデッキに乗り、逃げようとする。だが、オーリエルの動きは人間業ではなかった。彼女はパークの障害物をまるでダンスを踊るように利用し、加速し、一瞬で距離を詰める。 そして、背負っていた長剣を抜き放った。陽光を浴びた刃が、まばゆい光を放つ。 「ひぃぃっ!」 男の悲鳴がパークに響き渡った。彼は必死にオーリーを繰り出し、レッジ(縁石)に飛び乗って逃げようとする。だが、オーリエルはそれを追うように、ありえない高さの跳躍を見せ、空中で並んだ。 「森の裁きを受けよ!」 振り下ろされた剣の柄が、鳩尾に深々とめり込んだ。 「ぐふっ……!」 男はくの字に折れ曲がり、スケートボードから派手に転がり落ちた。コンクリートの地面に叩きつけられ、二、三度バウンドして、動かなくなる。 あっけない決着だった。 オーリエルは静かに着地すると、流れるような動作で剣を鞘に納めた。その顔には、何の感情も浮かんでいない。 「サトウ!」「サトウさん!」 取り巻きたちが、倒れたサトウのもとへ駆け寄る。 「おい、大丈夫か! しっかりしろ!」 仲間の一人に体を揺すられ、サトウはか細い声でうめいた。 「ぐ……負け、た……」 血を吐きながら、彼は最後の力を振り絞って、オーリエルを見上げた。 「だが……俺は……サトウ、だ……」 そう言い残すと、サトウはガクリと首を垂れ、静かに息を引き取った。 パークは静寂に包まれた。誰もが、目の前で起きた非現実的な出来事を理解できずにいた。 沈黙を破ったのは、オーリエルだった。彼女は小さく首を傾げ、心底不思議そうに呟いた。 「なんだ、サトウ? 人違いか。それならそうと、早く言ってくれないと困るじゃないか」 「言おうとしてただろぉが!」 仲間の一人が、涙ながらに絶叫した。 「アンタが問答無用で襲いかかってきたんだろうが! 人の話をまったく聞かねえからこうなるんだよ!」 「聞こえなかった。私の耳は、森の囁きや風の歌を聞くためにある。」 オーリエルは、悪びれる様子もなく、むしろ誇らしげにそう言い放った。そのあまりに理不尽な言い分と、神々しいまでの美貌のアンバランスさに、別の仲間が叫んだ。 「なんだそのイケメンみたいな言い訳! 冗談、顔だけにしろよ!」 「それで、本当のスズキはどこだ?」 オーリエルは周囲の怒号などまるで意に介さず、きょろきょろとパークを見渡した。すると、ランプ(半円状の滑走台)の陰で、ガタガタと震えている小柄な男と目が合った。彼のTシャツには、デカデカと『SUZUKI』の文字がプリントされている。 本物のスズキは、オーリエルと目が合った瞬間、悲鳴を上げる間もなく、脱兎のごとくパークから逃げ出した。そのスピードは、彼のスケーター人生における最高速度を記録したに違いない。 オーリエルは、猛然と走り去っていくスズキの背中を、追いかけるでもなく、ただ静かに見送っていた。そして、ぽつりと呟く。 「逃げるのは速いのだな。まったく、あのドワーフめ。スズキを適当に教えおって。今度会ったら、自慢の斧をへし折ってやろう」 彼女は小さくため息をつくと、満足したのか、あるいは飽きたのか、再びミスリルのボードに乗り、来た時と同じように、風のように去っていった。 残されたのは、亡骸となったサトウと、呆然と立ち尽くす仲間たち、そしてやがて伝説となる『バトルスケボー』の記憶だけだった。 オーリエルは、去り際に一人ごちる。 「追うべきか、見逃すべきか……。迷うのは一瞬だよ。恋と一緒だな」 結局、彼女はスズキを追わなかった。今日のところは、これで十分だと思ったからだ。 見上げる空は、まるで磨き上げられたサファイアのようにどこまでも青く、コンクリートの海に影を落とす太陽だけが、この地に起きた束の間の狂騒を記憶しているかのようであります。 風が、打ち捨てられた若者のデッキを寂しげに揺らし、カラカラと乾いた音を立てておりました。 去りゆくエルフの金色の髪は、真昼の光を浴びて、まるで神話から抜け出した一筋の流星のよう。 彼女が求めた王はそこに在らず、代わりに名もなき勇者が一人、夢の途中で散っていったのであります。 遥かなるエルフの森から吹きつける風の便りか、あるいは、ただの気まぐれか。 コンクリートジャングルに刻まれた小さな悲劇は、やがてアスファルトの熱気の中に溶け、誰の記憶からも消え去っていくことでしょう。 ただ一人、命からがら逃げ出した、本物のキングを除いては。

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2025年09月04日 12時03分
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