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バカボン風のチーク
冒険者養成学校の教室は、放課後のざわめきに満ちていた。誰もが仲間たちと今日の訓練の反省や、街の新しい店の噂話に花を咲かせている。そんな喧騒からポツンと一つ、取り残された席があった。 そこに座るエルフの少女、チークリアは、腰まで伸びる白銀の髪を揺らし、透き通るような白い両頬には、赤い絵の具で描かれた奇妙な渦巻き模様が鎮座している。 そして近くで荷物をまとめていた人間のクラスメイトに、話しかけた。 「私、バカボン意識してるんだよね」 チークリアは自信満々に頬を指さした。クラスメイトの少年は、眉をひそめて怪訝な顔をする。 「え?……ああ、『これでいいのだ』とか言う人?」 「それはバカボンのパパ」 チークリアは人差し指を立てて、したり顔で訂正した。 「パパの方は『賛成の反対なのだ』等の名言もあるけど、バカボン息子の方はさしたる名言も無いのよ。だからこそ、私がその魂を受け継ぎ、新たな伝説を作るのだ」 「ふーん……て言うか、意味分かんないからもう行って良い?」 「ああ、引きとめて済まんな」 少年は逃げるように教室を出ていった。また一人、友達候補が去っていく。チークリアは小さくため息をつき、机に突っ伏した。エルフの尖った耳が、しょんぼりと垂れる。 「どうして誰も分かってくれないんだ……」 暗闇が世界を支配し、天空には砕け散った宝石のような無数の星が瞬いています。 分厚い雲の海が、まるで巨大な白鯨の背中のようにゆっくりと流れ、その切れ間から覗く月光は、地上に眠る全ての生命に銀色の祝福を投げかけているかのようです。 冒険者養成学校の窓辺に一人佇み、頬に描かれた渦巻きを夜空の月に映すエルフの少女、チークリア。彼女が追い求める「友達」という名の蜃気楼は、果たしてこの世界のどこで彼女を待っているのでしょうか。 隣の部屋から聞こえてくる、相棒であるドワーフの盛大ないびきだけが、彼女の孤独な夜に寄り添う唯一の子守唄。 理解されぬ二つの魂が奏でる不協和音の冒険譚は、まだ始まったばかり。夜の帳は、そんな二人を優しく、そして静かに包み込んでいくのでした。
