エルフ雀士は国士無双の夢を見るか?

2025年09月23日 03時12分
使用モデル名:NovelAI
対象年齢:全年齢
スタイル:リアル
デイリー入賞 171
参加お題:

冒険者ギルドの掲示板から、少しばかり埃っぽい裏路地に入った先に、その店はあった。 看板には竜の尻尾を模した意匠と共に『自動麻雀卓完備 雀荘ドラゴンテール』の文字。扉を開ければ、紫煙と熱気、そして様々な種族の男たちの野太い声が、ジャラジャラという小気味よい牌の音と混じり合って押し寄せてくる。 そんなむさ苦しい空間にあって、ひときわ異彩を放つ一角があった。 長い銀髪を揺らし、森の湖面のように澄んだ瞳を持つエルフの女戦士。その指は、しかし、繊細な弓を引くのではなく、無骨な麻雀牌を握りしめている。彼女の名はリーチェ・シルヴァンリバー。その美貌とは裏腹に、彼女の打つ牌は嵐のように荒々しく、卓を囲む者たちを絶えず混乱の渦に叩き込んでいた。 「またお前のせいか、リーチェ! なぜそこで中(チュン)を鳴く!」 リーチェの対面に座るドワーフのガンツ・アイアンハンマーが、自慢の髭を震わせて怒鳴る。彼はリーチェの冒険者仲間だが、卓上では不倶戴天の敵であるかのように険悪だ。 「流れを変えるためよ。あんたのその岩みたいな頭じゃ、この高度な戦術は理解できないでしょうね」 二人の口論をよそに、小さな緑色の手がすっと牌をツモり、静かに卓に置いた。 「ツモだゴブ」 小柄なゴブリン、ゴブゾウがおどおどしながらも、はっきりと告げた。 「リーチ、ツモ、平和(ピンフ)、ドラ1。三千九百点だゴブ」 「……また、貴様か」 リーチェの眉がぴくりと動く。これで三局連続、ゴブゾウの勝利だ。ガンツから巻き上げた点棒が、みるみるうちにゴブゾウの元へと吸い込まれていく。 「ま、まあまあ、勝負は時の運だ。次、次!」 ガンツが場を和ませようとするが、リーチェの纏う空気はすでに氷点下だった。 そして、運命の東四局。 場は静まり返っていた。誰もがリーチェの動向を窺っている。彼女は目を閉じ、まるで森の木々の声を聞くかのように、精神を集中させていた。 静寂を破ったのは、またしてもゴブゾウだった。 カチャリ、と軽い音を立てて牌山から一枚引くと、彼は小さく、しかし確信に満ちた声で言った。 「ツモだゴブ。リーチ、一発、ツモ、ドラドラ! 跳満(はねまん)だゴブ!」 その瞬間、リーチェの目がカッと見開かれた。 彼女はゆっくりと立ち上がると、ゴブゾウを指さした。 「待ちなさい」 「へ? な、なんだゴブ?」 「貴様…今、その小賢しい緑の指で何かしたわね? 私の、このエルフの千年を見通す眼はごまかせないわよ!」 「な、何もしてないゴブ! 正々堂々のツモだゴブ!」 ゴブゾウが必死に両手を振って潔白を主張するが、リーチェは聞く耳を持たない。彼女は腰に提げたミスリル銀の長剣の柄に、すっと手をかけた。 「言い訳は冥府の王にでも聞いてもらいなさい。イカサマ師には、死の制裁を!」 「ちょ、待つゴブ! 早まらないで欲しいゴブ!」 「うるさい! その見るからに悪事を働きそうな卑しい顔が、何よりの動かぬ証拠よ!」 シャキン! と鞘走りの音も鋭く、白銀の刃が抜き放たれ、ゴブゾウの緑色の鼻先に突きつけられた。雀荘内を支配していた喧騒が嘘のように静まり返り、すべての視線がその卓に集中する。 「ひぃぃぃぃ!」 ゴブゾウは椅子から転げ落ちそうになりながら、情けない悲鳴を上げた。 「やめろリーチェ! 馬鹿な真似はよせ!」 ガンツが慌てて立ち上がり、リーチェの腕を掴もうとする。 「そうだぜ、エルフの嬢ちゃん!」 隣の卓で飲んだくれていた屈強なオークが、野太い声で助け舟を出した。 「そいつの手つき、ずっと見てたが、牌をすり替えるような素振りは微塵もなかったぜ。ただただ、ツキの女神に愛されてるだけだ」 店のマスターである初老のリザードマンも、カウンターから低い声で告げた。 「うちの店には、古の魔法で動く『イカサマ監視ゴーレム』が天井に設置されている。不正な動きを感知すれば、けたたましい警報が鳴り響く仕組みだ。…今のところ、静かなもんだがな」 皆の視線が天井の隅に固定された石の塊に向けられる。ゴーレムは、ただ無機質に部屋を見下ろしているだけだった。 四方八方からの証言を受け、リーチェは剣を構えたまま、きょとんとした顔で首を傾げた。 「え、そうなの? じゃあ、私の完全な勘違い?」 「当たり前だろうが! お前のその目は節穴か!」 ガンツが怒鳴ると、リーチェは「なーんだ」と呟きながら、あっさりと剣を鞘に納めた。あまりにも軽いその態度に、雀荘の誰もがずっこけそうになった。 へなへなと椅子に座り込んだゴブゾウが、額の冷や汗を拭いながら、震える声で言った。 「勘違いで…殺されかけたんスけど、ゴブ…。冗談、顔だけにしろよ…」 「ふん。まあ、今回は見逃してあげるわ」 リーチェは偉そうに腕を組むと、したり顔で続けた。 「でも、運だけで勝てると思うのは大きな間違いよ。麻雀の勝敗は、最終的にどれだけ相手を想えるかで決まるんだよ。恋と一緒だな」 「どこがだ! さっき殺そうとしてただろうが!」 ガンツの的確なツッコミが飛ぶが、リーチェは気にも留めない。 「それより、早く続けましょう。次で必ず取り返すわ。…ねえ、ゴブゾウ」 「は、はいッ、なんでしょうかゴブ!」 ゴブゾウは蛇に睨まれたカエルのように体を硬直させる。リーチェは、花が綻ぶような笑みを浮かべた。しかし、その瞳の奥は全く笑っていなかった。 「もし、次も貴様が私からロン和了りでもしたら…その緑色の指を全部、索子(ソーズ)の竹みたいに綺麗に切り揃えて、卓の上に並べてあげるから。そのつもりで打ちさない」 「助けてくれゴブーーーーーーッ!」 ゴブゾウの絶叫が、再び雀荘に響き渡った。 オーラス、南四局。リーチェが親番。 彼女の目は、獲物を狙う鷹のように鋭い。これ以上負けられないという気迫が、卓全体に重圧となってのしかかる。 「リーチ!」 リーチェの高らかな宣言と共に、千点棒が卓に置かれた。リーチ棒が、まるで墓標のように見える。 ゴブゾウの手元には、テンパイした手牌があった。そして、ツモってきた牌は、どう考えてもリーチェの当たり牌としか思えない危険な牌だった。 (これを切れば、ロンと言われる…そして、俺の指が索子に…!) (しかし、これを切らねば和了れない…! 点棒か、指か…! いや、命か!) ゴブゾウの脳内で、天国と地獄のシーソーが激しく揺れ動く。数秒が数時間にも感じられる葛藤の末、彼はブルブルと震える手で、安全そうな牌をそっと河に捨てた。和了りを放棄したのだ。 遥か天空の満月が、まるで巨大な白(ハク)の牌のように、街の瓦屋根を青白く照らしています。 地上では、牌という名の小さな石を巡って一喜一憂する者たちがいますが、天上に瞬く無数の星々は、そんな彼らの矮小な営みを、ただ静かに見下ろしているだけなのです。 彼女の心に灯った闘争の炎は、果たして次の半荘まで燃え続けるのでしょうか。それとも、路地裏を吹き抜ける夜風に吹かれて消えてしまう、はかない残り火に過ぎないのでしょうか。 遠い空の彼方から、ドラゴンの鳴き声にも似た風の音が、聞こえてくるようです。 また一つ、勝負を終えた者たちの長い夜が、静かに更けていきます。

コメント (2)

ガボドゲ
2025年09月24日 01時29分
へねっと
2025年09月23日 12時06分

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