thumbnailthumbnail-0thumbnail-1thumbnail-2thumbnail-3thumbnail-4thumbnail-5thumbnail-6thumbnail-7thumbnail-8thumbnail-9thumbnail-10thumbnail-11thumbnail-12thumbnail-13thumbnail-14thumbnail-15thumbnail-16thumbnail-17

1 / 18

エルフ女戦士テレスコピアのバードウォッチング狂想曲 ~幸せの青い鳥は頭上にいた~

「見ろ、ボルガン! この白銀に輝く優美なフォルム! 森の賢者が三日三晩祈りを込めて研磨したという超高精細マナ・レンズ! そしてミスリル銀と月長石を贅沢に練り込んだ鏡筒! これぞ我が新たなる相棒、魔導望遠鏡『スターゲイザー』だ!」 澄み切った青空の下、エルフの女戦士テレスコピア・シルヴァンアイは、自慢の望遠鏡を三脚に据えながら高らかに宣言した。陽光を反射してきらめく銀髪を風になびかせ、その表情は自信に満ち溢れている。 その傍らで、岩に腰掛けて固い干し肉をかじっていたドワーフのボルガン・アイアンハンマーは、心底うんざりした顔で答えた。 「へいへい。そのクソ高いガラクタのために、先週受けた依頼の報酬が全部消えたことは忘れねえぞ。俺の新しい斧が買えたんだぞ、あれで」 「斧とロマンを一緒にするな、このヒゲもじゃ! いいか、今日はこの『スターゲイザー』で、幻の幸せの青い鳥『ルリイロカザリフウキンチョウ』をこの目にとらえる! その生態を解明し、バードウォッチャー界の頂点に君臨するのだ!」 「バードウォッチャーの頂点って何だよ。鳥鍋でも作んのか」 「野蛮なことを言うな! 観賞用だ、観賞用! 美しいものは愛でる。ただそれだけだ」 テレスコピアはボルガンの悪態を柳に風と受け流し、さっそく望遠鏡の接眼レンズにその大きな翠色の瞳を当てた。彼女の長い耳がぴんと立ち、編み込まれた髪の間で小さなアホ毛がぴょこんと揺れている。 「ふむ…よし、索敵開始! エルフの動体視力と『スターゲイザー』の索敵能力を合わせれば、森を駆けるリスのまつ毛の本数まで数えられるわ!」 「そんなキモい情報はいらねえよ…」 ボルガンがため息をついた、その時だった。テレスコピアが息をのむ音が聞こえた。 「……いた! 見つけたぞ、ボルガン!」 「なにっ、もうか!? さすがはエルフの目、とでも言っておくか…」 ボルガンの声にも興奮が混じる。幻の鳥とやらを拝めれば、この退屈な待ち時間も報われるというものだ。 「あれは…遥か東の空に舞う、純白の翼! なんという神々しさ! 天馬ペガサスだ! 伝説は生きていたのだ!」 「……おい、エルフ」 「なんだ! 今、世紀の発見の余韻に浸っているのだ。邪魔をするな」 「ありゃあ、ただの雲だ」 「は?」 テレスコピアがレンズから目を離し、指さす方向を肉眼で見る。そこには、言われてみれば馬のような形をした白い雲が、のんびりと浮かんでいるだけだった。 「……くっ、魔力の揺らぎで幻影を見せられたか! やはりこの森には何かいるな!」 「お前の頭に何かがいるんじゃねえのか」 「うるさい! 次だ、次! 今度こそ!」 再びレンズを覗き込み、森の奥深くへと焦点を合わせるテレスコピア。そして、またしても歓喜の声を上げた。 「おおっ! 今度こそ間違いない! 森の奥にそびえ立つ、あの威容! 数千年の時を生きる森の主、エンシェント・トレントだ! あの枝ぶりの見事さ、年輪に刻まれた歴史の重み…!」 「……なあ、エルフ」 「なんだ!」 「それは昨日、俺がお前に薪集めを頼んだ時に『めんどくさいから』って言って見向きもしなかった、ただのデカい木だ」 「……」 テレスコピアは無言で望遠鏡の向きをぐるりと変えた。気まずい沈黙が流れる。 ボルガンはもう一度、固い干し肉に歯を立てた。ガリッ、と乾いた音がやけに大きく響く。 「……探し物は見つからない時ほど燃えるものだよ。恋と一緒だな」 「いきなり何をポエムってやがる」 「お前にこの高尚な心がわかってたまるか! 絶対に見つけてやる…私の青い鳥…!」 テレスコピアは半ばヤケクソになり、望遠鏡をめちゃくちゃな方向にあちこちと向け始めた。そのたびに「あれはグリフォン!」「いや、ロック鳥の雛だ!」「山頂にいるのはドラゴン!」などと騒いでは、ボルガンに「ハゲタカだ」「カラスだ」「ただの岩だ」と冷静に訂正されるやり取りが、陽が中天に昇るまで延々と続いた。 すっかり不貞腐れてしまったテレスコピアは、望遠鏡の鏡筒をバンバンと叩き始めた。 「なぜだ! なぜ見つからん! この超高性能な『スターゲイザー』を以てしても見つからないなど! 私のエルフの目が節穴だとでも言うのか! この森が悪い! そうだ、きっとこの森の生態系が貧しいのだわ!」 「八つ当たりも大概にしろ。そのガラクタが壊れたら、また俺の斧が遠のく」 ボルガンは呆れ果てていたが、ふと、テレスコピアのある部分に目が留まった。彼女が頭を振るたびに、銀髪の間で何かが小さく揺れている。 「おい、エルフ」 「なんだ! 文句があるなら聞こうじゃないか!」 「いや、文句というか…お前のそのとんがった耳の上…いや、アホ毛のあたりについてるそれ…」 ボルガンが指をさすが、テレスコピアはそれが自分に向けられているとは気づかない。 「アホ毛だと!? これは私のチャームポイントだ、馬鹿にするな! それより、何か見つけたのか!」 「ああ、見つけた。とんでもなく近場だがな」 ボルガンはこれ以上口で説明するのは無駄だと悟り、懐から小さな手鏡を取り出してテレスコピアの顔の前に突き出した。 「なんだこれは! むっ、私の美貌が映っているな。まあ、当然か」 「そこじゃねえ! 頭の上だ、頭!」 言われて、テレスコピアは鏡に映る自分の頭頂部に視線を移す。 そこには――。 彼女の編み込まれた銀髪を、絶好の巣と勘違いしたのか。 ぴょこんと揺れるアホ毛を、心地よい止まり木と見定めたのか。 瑠璃色の宝石のような美しい羽を持ち、小さな黒い瞳を愛らしくきらめかせた一羽の小鳥が、ちょこんと乗っていた。時折、器用にくちばしで自分の羽を整えている。 それは、彼女が血眼になって探していた「ルリイロカザリフウキンチョウ」そのものだった。 数秒の沈黙。 やがて、テレスコピアはゆっくりと顔を上げた。その表情からは先程までの不満は消え去り、一点の曇りもないドヤ顔が浮かんでいた。 「ふ、ふふん。そうか、やはりそうであったか。私の類稀なる幸運と、自然を愛する清らかな心が、この奇跡の青い鳥を引き寄せたのだな! 望遠鏡など、しょせんまやかし! 真のバードウォッチャーは、心で鳥と語り合うものなのだ!」 くるりと手のひらを返し、すべての功績を自分のものにしたテレスコピアを見て、ボルガンは天を仰いだ。そして、今日一番の深いため息と共につぶやいた。 「冗談、顔だけにしろよ」 はるかなる大空を流れる雲は、まるで羊飼いに追われる羊の群れのように、ゆっくりとその形を変えながら西へと去っていきます。 遥かなる地平線を目指したエルフの瞳が、ついに捉えた真実。それは、天を穿つ望遠鏡のレンズの先ではなく、自らの最も高い場所、そう、編み込まれた銀の髪の上でありました。 幸せという名の青い鳥は、時として我々を嘲笑うかのように、最も身近な場所にその小さな羽を休めているのかもしれません。 広大な森にこだまするのは、ドワーフの疲れ果てた深いため息か、それとも頭上の小さな友人にささやくエルフの満足げな鼻歌か。 空の青と鳥の青が溶け合う昼下がり、彼女の冒険の1ページは、こうしてまた、少しだけおかしな思い出と共に閉じられていくのでありました。

コメント (3)

ガボドゲ
2025年10月25日 11時10分
五月雨
2025年10月24日 13時16分
へねっと
2025年10月24日 12時05分

190

フォロワー

いいねコメントありがとうございます。忙しくなって活動を縮小しています。返せなかったらすみません。

おすすめ