紫陽花夫人_1
とある山間の村の奥まったところに在る洋館。そこは村の者が手入れをしている訳でもないというのに、梅雨の頃には見事な紫陽花が庭園に咲き誇るという。しかし村の者、特に男子は近づくことも館に目を向けることすら禁忌とされている。その謎を知りたい、探りたいという者が年に一人、二人は現れるのだが、村人は躊躇なくあらましを教えてくれる。あの屋敷は「紫陽花館」と呼ばれ、村生まれだった商家の旦那が洋風被れの細君の趣味で建てた別荘だったという。その後、若旦那に嫁いできた年増女が居たのだが、なんとも妖艶な雰囲気の寡黙な女人で、輿入れに持参した紫陽花を庭に植えて以来、見事な紫陽花を咲かせるようになった。そして、彼女の魅力に若旦那はおろか商談相手、番頭に丁稚、庭職人、果ては大旦那までもが魅了され、その柔肌に溺れていったそうな。溺れた男は行方を晦まし、果ては女中に大旦那の細君までもが行方知れずとなり、商家は瞬く間に没落してしまった。しかし彼女は屋敷に棲み続け、梅雨時の紫陽花の咲く頃になると、まるで紫陽花の花弁に身を包んだかのような妖艶な出で立ちで庭を彷徨い、近づく男を魅了して招き寄せてしまうのだ。こう聞くと、尋ねてくる者たちは皆首を傾げる。「今は◯和なのに、それはまるで明治大正の話であるかのよう」だと。村人は話を終えると黙々と野良仕事に精を出す、紫陽花館に背を向けながら。そして怪訝を抱きながら館に近づくと、開かれた門扉の向こう、その庭に彼女は佇んでいる。雨に濡れた微笑を湛えながら、手招きするでもなく、誘う。そして館に足を踏み入れたものは、二度と還ってこない──。 ───── だいぶ前にSDで生成したものを、grokで動かしてみた。動画生成能力も短期間で飛躍的に向上するもんだ、と驚きっぱなし。
