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洗い流せないもの【天城 瑠奈】
一日の終わり、 天城瑠奈は黙ってシャワーを浴びる。 熱い水が肩を伝い、 今日の出来事をなぞるように流れていく。 まるで、何もなかったかのように。 夜の選択も、口にしなかった言葉も、名前を偽った時間も………。 水音の向こうで、形を失っていく。 厳格な両親に反発し、高校卒業と同時に家を出た。 逃げるように飛び込んだ夜の世界で、彼女は“生き方”を選んだはずだった。 湯気の中で目を閉じる。 洗い流せるものは、確かにある。 けれど、胸の奥に残るモヤモヤだけは、いつも静かに、そこに居続ける。 シャワーを止め、水滴を拭うその瞬間。 瑠奈は知っている。 夜は終わっても、心はまだ乾かないことを………。
