九屋敷美羽はフィギュアである
俺の名前は山田。どこにでもいる平凡な男子高校生だ。 放課後、自分の部屋のパソコン机を見て、思わず二度見した。 机の上に――七分の一サイズのスペースバニー九屋敷美羽フィギュアと、そのパッケージが何の前触れもなく飾られている。 「……は?」 俺が手を伸ばすと、フィギュアがぴょこんと跳ねた。 「山田くん、おかえりなさい!」 ……いや、喋った!? 机の上のフィギュア美羽は、あの穏やかな笑顔で俺を見上げながら言った。 「今日も愛と平和を守るために、七分の一サイズで潜入してみました!」 待て。潜入?俺の部屋って戦場か。 その瞬間、窓ガラスが割れ、謎の敵が侵入してきた。 「地球を征服するでゲソォォ!」 ……語尾まで迷走かよ。サイズまで小さいのに口調はフルパワーだな。 フィギュア美羽はぴょんぴょん跳ね、両手を広げて光線を放つ。 「くらえ! ミニサイズバニーブラスター!」 光線が机の上のパッケージやキーボードを巻き込みながら飛び交う。 俺は椅子の下に隠れ、頭を抱える。 「いや、俺の部屋、完全に戦場じゃねーか!」 美羽は光線を連射しながら、ひょいとパソコンモニターの前に飛んだ。 瞬間―― フィギュア美羽が、光線を打ち合いながらモニターの中に発光しながら消えた、それを追いかけるように敵も消えた。 「……え? ちょ、何その展開!」 振り返れば、机の上はめちゃくちゃ、パッケージもキーボードもマグカップも散乱している。 俺だけが、ぽつんと取り残された。 モニターからは、微かにピコピコと光る残像が見える。 ――いや、どう考えても平凡な日常じゃねーだろ。七分の一サイズの美羽と謎の敵が、モニターの中に消えるって何だよそれ。 俺は机の上の散らかった光景を見つめながら、深くため息をついた。 今日も俺の平凡な日常は、微塵も平凡じゃなかった。
