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魚帽子の戦士と森の秘宝探し

大陸にその名を(悪名で)轟かせるエルフの女戦士がいた。その名はパワリエル。銀色の長髪を風になびかせ、モデルもかくやという美貌を持つが、その実態は、努力嫌い、自分勝手、楽して最強になりたい、という欲望の塊であった。 「あーもう! なんであたしがこんな重い鎧着て、汗水たらしてゴブリン退治しなきゃいけないわけ!? もっとこう、指パッチンひとつで敵が塵になるみたいな、圧倒的な力が欲しい!」 岩に腰掛け、パワリエルは愛剣の柄で地面をコンコンと叩きながら不満をぶちまける。その隣では、相棒であるドワーフのゴルドーが、見事な斧を手入れしながら盛大なため息をついた。 「またその話か、パワリエル。力とは日々の鍛錬の先にこそ宿るものだ。お前のようにクエストの途中で『飽きた』と言って昼寝を始めるような奴に、神は力を与えん」 「うるさいわね、ヒゲダルマ! だいたいアンタの説教は長いのよ。もっと簡潔にまとめなさい! あたしは今、伝説の力が眠るっていう港町『ポート・フィッシュ』に来てるの。こんな所で油を売ってる暇はないのよ!」 「油を売っているのはお前の方だろうが! そもそも、その『伝説の力』とやらはどこで聞いたんだ」 「そこの酒場の看板に書いてあったわ。『ギョギョっと驚く力が手に入る!? 伝説の海へGO!』って」 「それは釣り客向けの観光キャッチコピーだ! エルフの寿命で何年生きてるんだお前は!」 ゴルドーの怒声も、パワリエルには馬の耳に念仏、いや、ドワーフの耳にエルフの歌だ。彼女はすでに立ち上がり、キラキラした目で港の先にある岬を見つめていた。 「待ってなさい、あたしの圧倒的な力! 今、このパワリエルが手に入れてあげるから!」 「おい、待て! 話を聞け!」 ゴルドーの制止を振り切り、パワリエルは風のように駆け出してしまった。残されたドワーフは「あのアホエルフ……」と悪態をつきながら、重い足取りでその後を追うのだった。 ◇ 岬の先端、潮風が頬を撫でる岩場で、パワリエルはついに”それ”を発見した。 波打ち際で、まるで宝石のようにキラキラと輝く一匹の魚。大きさは人の頭ほどで、体は七色に光り、その瞳は深淵を覗き込むかのように澄み切っていた。神々しい、と表現すべきか、あるいは、不気味と表現すべきか。 パワリエルが恐る恐る近づくと、その魚は口をパクパクさせ、直接脳内に語りかけてきた。 《力が……力がほしいか……?》 「えっ!? しゃべった! 欲しい! すっごく欲しい! ドラゴンを一睨みで服従させられるくらいのやつ!」 パワリエルの食い気味な返答に、魚は一瞬たじろいだように見えた。 《……よかろう。ならば、我を汝の頭の上に乗せるがよい。さすれば、大いなるギョギョの力を与えん……》 「頭に? わかったわ!」 パワリエルが何の疑いもなく魚に手を伸ばした、その時だった。 「待て待て待て! やめろ、パワリエル!」 息を切らしたゴルドーが、ぜえはあと肩で息をしながら駆けつけた。 「どう見ても怪しいだろうが! 頭に魚を乗せろだ? そんなんで力が手に入るわけがない! そいつは脳みそを吸うタイプの魔物かもしれんぞ!」 「あら、ゴルドー。でもこのお魚さん、すっごくキラキラしてるわよ? きっといい魚よ」 「見た目で判断するな! だいたいお前は昔からそうだ。怪しい壺も『デザインが可愛いから』って買いそうになるし、毒キノコも『色が綺麗だから』って食べようとする!」 「あら、心外ね。どんな物事も、まずは試してみなきゃわからないじゃない。試行錯誤は成功の母だよ。恋と一緒だな」 「やかましいわ! とにかくそいつから離れろ!」 ゴルドーがパワリエルの腕を掴もうとするが、彼女はひらりとかわし、あっさりと光り輝く魚を両手で掬い上げた。 「わかりました、お魚さん。あたしの頭へどうぞ」 《うむ……》 パワリエルは、恭しくその魚を自分の頭の上に乗せた。 その瞬間。 魚はブニョリと形を変え、パワリエルの頭部にヘルメットのようにピタリと張り付いた。まるでハコフグ型の帽子だ。 「なっ……!?」 ゴルドーが絶句する。パワリエルの瞳がカッと見開かれ、全身から青白いオーラが迸った。彼女は天に向かって両手を突き上げ、高らかに叫んだ。 「ギョ……ぎょぎょーっ!!!!!」 オーラが収まると、そこに立っていたのは、見慣れたパワリエルの姿ではなかった。 身にまとっていた革の鎧は、きらめく鱗の装甲『スケイルメイル・オブ・オーシャン』に変わり、手には白銀に輝く三叉の槍『聖槍トライデント・ギョリン』が握られている。そして何より、頭には七色に輝く魚型ヘルメットが鎮座し、そのつぶらな瞳がキョロキョロと動いていた。 ポーズをビシッと決めたパワリエル(さかなくんモード)は、自信満々に言い放った。 「見よ、ゴルドー! これが新たなあたしの力! その名も、海の勇者パワリエル・フィッシュ!」 「ダサい! 名前が絶望的にダサい! というかその頭! どう見ても魚が乗ってるだけじゃないか!」 「失礼ね! これはあたしとさかなくんが融合した、究極の姿よ!」 パワリエルがドヤ顔で胸を張る。そのなんとも言えない表情に、ゴルドーはこめかみをピクピクさせながら言い放った。 「冗談、顔だけにしろよ」 その時、穏やかだった海面が突如として泡立ち、巨大な触手が二人を襲った。伝説の魔物、クラーケンの子供だ。 「ヒャッハー! ちょうどいいサンドバッグの登場ね! 見てなさい、あたしの新しい力!」 パワリエルは槍を構えると、奇妙なステップで触手をかわす。まるで魚が水中を踊るような、くねくねとした動きだ。 「くらえ! 必殺! ギョギョっとスパイラル・アクア・ストリーム!」 パワリエルが槍を高速回転させると、渦潮が発生し、クラーケンの触手を絡め取って海へと叩きつけた。魔物は悲鳴を上げて深海へと逃げていく。 「ふふん、どうよ! あたしの力!」 「……動きが気色悪いこと以外は、まあ、確かに強いみたいだな」 呆れ果てたゴルドーの横で、パワリエルは高らかに笑った。 「これであたしは無敵よ! もう面倒な修行も、小難しい作戦会議もいらないわ! さあ、行くわよゴルドー! この力で世界中の珍味を食べ尽くす旅の始まりよ!」 「目的が完全に変わってるだろうが!」 こうして、エルフの女戦士パワリエルは、不思議なサカナ「さかなくん」の力を手に入れた。 彼女が救世主となるのか、それともただの食いしん坊な迷惑者となるのか。それはまだ、誰にもわからない。 ◇ 夜の帷が世界を包み、空には銀の刺繍が施されたように星々が瞬いておりました。 海は静かに呼吸を繰り返し、月光を浴びた波頭は、まるで砕け散ったダイヤモンドのように煌めいております。 一人のエルフが、頭に魚を乗せたまま、何を思うのでしょうか。 彼女が求めるのは、世界の平和か、それとも明日の晩餐か。 その答えは、瑠璃色の水平線の彼方から吹き付ける、心地よい潮風だけが知っているのでございます。 遠い海の底で見た、甘く切ない夢の記憶のように、ただ静かな時間が流れていくのでした。

コメント (3)

ガボドゲ
2025年10月30日 11時41分
BBぼるてっくす
2025年10月28日 16時11分
へねっと
2025年10月28日 06時54分

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