ミリシラ様の異世界百景その18「王都の灯台」

地球の皆の者、こんクエスト～！全知全能の大賢者「ミリシラ・シッタカブール」様じゃぞ～！ 今日は王都の西海岸にある灯台へ来ておるわい。別段特筆する点も無い普通の灯台なんじゃが、それは現在の話。過去には恐ろしい事が起きたんじゃよな。今日はその話をしてやろう。 そもそも、灯台ってどういう役割があるかは知っておるよな？そう、船の目印になるんじゃ。一種の標識として扱われておる。夜間や嵐などで周囲の様子が分かりにくくても、灯台の光を頼りに船舶は適切な行動を起こしやすくなる。その性質上、灯台は岬や沿岸といった海の近くに建てられるのが普通じゃ。 しかし、魔物がこの世界に現れるようになってからしばらくしたある時期、灯台は必ずしも信じてよい存在ではなかった。灯台が魔物と化した事例が頻発したんじゃよ。海で命を落とした魔物や人間の魂が成仏できずにさまようと、灯台の明かりを頼りにして灯台に集まってくるようなんじゃ。海沿いにあって分かりやすい目印じゃからな。そして、集まってきた無念の魂が灯台に宿り、邪悪な意思を宿す魔物になり果ててしまった。手足が生えてきて自由に動けるようになった灯台魔物は、勝手に位置を変えて船を惑わし座礁を引き起こしたりして人々に損害を与えた。この際に海に投げ出された人々を長い手で掬い取って喰らっていたという記録もある。また、普段は灯台に擬態していて近くを船が通ると腕を伸ばして船ごと捕獲し、乗員もろとも貪り食う悪魔じみた奴までおった。元が建造物なだけあって巨大で堅牢であり、冒険者たちも討伐には手を焼いたものじゃ。しかも破壊した後は急いで新しい灯台を建てなければ船が目印を失うという事になるし、対策が見つかるまではかなり深刻な問題だったんじゃ。 あまりに被害が大きいので、その当時の賢者たちが研究を進めていたところ、魔物になる灯台とならない灯台に明確な条件が見つかった。魔物になった灯台はいずれも普段は住み込みの人間がいない灯台で、変化のない灯台は住み込みの灯台守がいる場合が多かった。恐らく、灯台守という人間がいる事で迷える魂が灯台を住処にしづらいからじゃろうという結論が出され、全ての灯台には住み込みの灯台守の存在が義務付けられた。それ以来は、新たに灯台が魔物化したという話は聞かなくなったのじゃ。 こういう訳で、現在全ての灯台には灯台守が住んでおる。彼ら彼女らは灯台の魔物化を防ぐ大切な役割を担っているため、国も重点的に訪問して灯台守の安否確認は欠かさないようにしておるぞ。ただ、灯台って周りに他の家が無いからのぅ。近所づきあいが出来ないから、灯台守をやっておるのは偏屈な者や人見知りが多いんじゃ。また、若い女が灯台守をやっておる灯台では、道に迷った旅人を装って夜に訪ねていき、近隣の住民がいないのをいいことに一つ屋根の下で『あーれー』な事に及ぶ不心得者もいる始末。そういう奴らみんな海の藻屑になってくれんかのぅ・・・。 まあ、灯台の歴史についてはこんなもんじゃな。今は本来の役割を取り戻して船を導いておるし、そのシンボル的な性質上写真家にも人気なんじゃぞ。ヒマリと仲良くしているウィローも何枚か写真撮っておったな。ええと、とりあえず3枚か。・・・全体的に暗いのぅ、まあ灯台を目立たせるために悪天候や夜を選んでおるんじゃろうな。奴にしてはやりおるわい。ウィローは女の乳や尻ばかり追いかけておる印象じゃったが、存外風景写真の才能の方があるんじゃないか？ さてさて、日も暮れてきたことじゃし、あんまり灯台の周りをウロウロしておるとワシが不審者に間違われてしまうわい。そろそろ切り上げようかの。 見てくれてありがとうなのじゃ、おつカブール～！ ・・・もしワシが灯台守に就職したら男が訪ねてくるかのぅ？いや、ダメか。そんな目的で来る奴がいい男の訳がないわい。