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月詠瑠那と月詠魅亜
──月の光が、床に白く落ちていた。 「……え?」 天音梨花はふと我に返った。教壇の前に立っていたはずなのに、いつの間にか夜の教室にいた。窓から差し込む月明かりが、床と机と、自分の影を淡く照らしている。 静まり返った空間。妙に冷たい空気。どこか現実離れしたその場で、梨花の視線がある一点に吸い寄せられた。 そこに立っていたのは──月詠魅亜。 ……いや、違う。 目の前の少女は、確かに魅亜と瓜二つ。けれども、瞳の色も、声に乗る空気も、何もかもが違っていた。 「ごきげんよう、先生」 その声は囁くように柔らかく、けれど耳の奥に残る不快な余韻を含んでいた。 「つ、つくよみ……魅亜さんの……お姉さん……?瑠那さん で、ですねっ」 梨花の声がうわずる。視線の先で、魅亜がゆっくりと跪く。 「瑠那様……」 その口ぶり、その表情。それは明らかに姉妹のものではなかった。主従。支配と服従。歪な関係性の中で、瑠那は微笑む。 「少し、試したいことがあるの」 瑠那の指先に、いつの間にか銀色のナイフが握られていた。光を浴びて細く、冷たく輝いている。 「!?」 瑠那は優しく魅亜の背を抱き、恋人に囁くように唇を寄せた。 「大丈夫よ、すぐ終わるわ」 そして──ナイフを魅亜の胸元へ。 梨花は絶叫した。足がもつれて、床に崩れ落ち──意識が、闇に沈んだ。 ……目を開けると、そこはまた教室だった。 月明かりが変わらず差し込んでいる。だが、何かが──違う。 「どうしました? 先生、急に大声を出して」 振り返ると、そこにいたのは、何もなかったように立つ月詠瑠那。そして、傍らには無傷の魅亜。 「……っ、うそ……そんな、さっき……さっき……っ!」 梨花は息を乱しながら後ずさった。だが二人はまるで怪訝そうに、小首を傾げるだけ。 「先生……大丈夫ですか? 顔色が……」 魅亜が心配そうに近づく。その手には血の気も、震えもなかった。 まるで、何もなかったかのように。 梨花の思考が、混乱の渦に沈もうとしたそのとき──瑠那がぽつりと呟いた。 「……ああ、なるほど。そういうこと」 その瞬間、梨花の胸元で、月のペンダントがかすかに光を放った。 月明かりが強く差し込む──まるで、永遠の夜に招かれるように。
