【音楽】コマメちゃんと仲直り

花梨さんから「コマメが面白い事してますので見に来ませんか」という一報が。この間、金剛院邸で会った時には大層不機嫌な様子だったけど、少しは機嫌が直ってるといいんだけどな。そう思いながら薔薇庭園を歩いていると、どこかから歌声が。 「コマメちゃん？」 音の出所に向かうと、コマメちゃんが何やら目を閉じて歌っています。花梨さんの言っていた面白い事ってこれかな。 「ピピー。センサーに反応あり・・・パパ！」 コマメちゃんは高性能センサーで私の接近に気付いたようです。また通せんぼを受けるのかと思って少し身構えましたが、コマメちゃんは私の前まで来るとしゅんとした様子で頭を下げました。 「パパ、先日は申し訳ありませんでした。コマメの判断が間違っておりました」 おや、予想外の対応です。話を詳しく聞いてみましょう。 「コマメとしてはパパと花梨先輩を結びつける事でパパが幸せになると確信していました。しかし、しっかりと調査をしてみると人間は必ずしも能力値だけでパートナーを選択しないという結論に至りました。データ不足により間違った結論をパパに押し付けていたのです」 「ああ・・・つまりコマメちゃんは、『花梨さんは優秀な能力値を持つ女性だから私のパートナーにするのにふさわしい』と思ったんだね？優秀な女性が私の妻になれば、私が幸せだろうと考えたわけだ」 自然界においては、オス上位の動物にしろメス上位の動物にしろ、異性へのアピールは概ね体の大きさや色柄の派手さ、鳴き声の美しさなどなどの『能力』で行われます。そういう観点で見れば、花梨さんは全ての能力が高く非常に魅力的な女性だと判断できるでしょう。コマメちゃんとしてはベストアンサーのつもりで私と花梨さんの間を取り持とうとしたのに私が瑞葵ちゃんと付き合い始めたので怒っていた訳です。そう聞くと納得しました。 「ピピー。その通りです。しかし現実には必ずしもそうではないと学習しました」 「うん、人間はちょっとその辺り面倒な事が多いよね。動物と一緒って訳には行かないかな」 恋愛感情の有無や理性、人間関係や立場に財力。高度な社会性を持つ人間は、そうした要素を考慮しない単純な個人の能力だけでパートナーを決めるのは早計なケースがほとんどです。 「つまり、瑞葵さんをパートナーとするパパの選択が間違っていると断定できません。コマメとしては遺伝子的相性から見てもパパと花梨先輩のカップリングがイチオシですが、パパの気持ちを尊重するべきだと判断します。未熟な言動で大変不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」 「ありがとう、コマメちゃん。でも私はコマメちゃんの事、怒ってないよ」 優しく告げると、コマメちゃんはぱっと顔を上げます。 「ピー！それは本当ですか、パパ」 「もちろんだよ。何度も怒らせたならともかく、たった一回の失言で『今後何があっても絶対に許さない』ってなる人はそうそういないよ」 「ピー♪」 コマメちゃん、私に許してもらえて嬉しそう。すっと手を伸ばしてきたので、ぎゅっとハグしてあげました。これで仲直りはできたかな。さて。 「・・・ちなみに私と花梨さんの遺伝子的相性、そんなに良いの？」 「はい、パパと花梨先輩の間に出来た子供は高確率で『美形・文武両道・多方面の才能・魅力的な人格・そしてそれらを用いて次々と異性を食い物にする性欲』を持ち合わせたスーパーヒューマンになる計算です」 ・・・もし瑞葵ちゃんと破局しても花梨さんとの結婚は慎重に検討した方がいいかもしれない。そんな子供怖すぎる。絶対なんかトラブルを起こすぞ。 「それよりパパ、コマメはパパへのお詫びとして大好きなパパへの気持ちを込めた歌を作ったのです。聞いてもらってもいいでしょうか？」 「えっ、コマメちゃんが歌を！？」 ロボットなのにそこまで出来るんだ。・・・いや、今はAIも進歩してて画像や動画、歌や音楽に果ては長編小説や論文まで出力するらしいからな。コマメちゃんのAIレベルを考えれば出来てもおかしくはないか。 「もちろんいいよ、ぜひ聞かせてほしいな」 「分かりました、では」 https://suno.com/song/63f6d1db-f9aa-4d40-8034-6189c4a80c89 コマメちゃんはロボットなので、歌といっても歌声だけでなく音楽も一緒に発声できます。まあそのせいで若干聞き取りづらいですが・・・比較的落ち着いた曲なのでまだマシか。いやしかし、問題はそこでは無くて。 「こ、コマメちゃん・・・二番だけなんか毛色違わない？ちょいちょいディスられてる気がするけど」 「事実しか歌っておりませんが」 「待った。『時々スケベ』くらいは甘んじて受けよう。でも『誤魔化すのが上手くて浮気性の変態』は言い過ぎでは？」 「どこがどう違うのでしょう？データによれば多数の女性に『好きor可愛い』と発言し、下着や裸を見た事も一度や二度ではありません。しかもそれを他の女性に見咎められると高確率で弁明を始めます。さらに相手によってはお触りや盗撮に類する行為も行っており、これは変態行為と言えるのではないでしょうか？」 シンプルに『何も違いませんが』と言わんばかりにぐうの音も出ない正論をぶちかますコマメちゃん。この子、本当に私に対してもう怒ってないのかって疑いそうになる。少なくとも、『大好きなパパ』に贈る歌じゃないでしょ、二番の歌詞は。 「この音源はパパのスマホにも転送しておきました。ご査収下さい」 「あ・・・ありがとうね、コマメちゃん」 花梨さん、多分歌詞の内容知ってたな。これ、私に取って面白い事じゃなくて花梨さんにとって面白い事だったでしょ。これはちょっと、飲みに誘った時にわからせないといけないかなぁ。