岩肌に刻まれた炭鉱町/スマホ壁紙アーカイブ
【岩肌に刻まれた炭鉱町】 朝、目を覚ますと窓の外に岩肌が見える。 まるで町が山に抱かれているようで、安心するのだ。 洗濯物を干すたびに、向かいの家の奥さんと目が合う。 彼女はいつも「今日はいい風だね」と笑う。 炭鉱の煙と一緒に風は流れていくけれど、 洗濯物はちゃんと乾くから不思議なものだ。 石門をくぐって坂道を下れば、古い商店街がある。 煤で黒くなった看板も、僕らには目印のひとつだ。 あのパン屋は昔から変わらない味で、 鉱夫たちが夜勤明けに立ち寄る姿を今もよく見かける。 夕方になると煙突からもうもうと煙が上がる。 空がオレンジに染まるころ、 「今日も一日が終わったな」と町全体がため息をつく。 岩肌に刻まれた炭鉱町。 ここは便利じゃないし、坂道で足も痛くなる。 でも、誰もが顔見知りで、煙の匂いまで懐かしく思える。 たぶん、僕はずっとここに暮らしていくのだろう。
