風を待つ横顔/スマホ壁紙アーカイブ
【風を待つ横顔】 彼女はバイクにもたれて、風を待っていた。 正確に言えば、風そのものではなく、 風が来る前の空気の変化を待っていたのかもしれない。 世界がほんの少しだけ向きを変える、その瞬間だ。 僕は少し離れた場所から、それを眺めていた。 彼女は何も考えていないように見えたし、 同時にとても重要なことを考えているようにも見えた。 そういう人はたまにいる。 駅のホームや、深夜のコインランドリーや、意味のない交差点の真ん中に。 エンジンはかかっていなかった。 けれど彼女の中では、もう走り始めている何かがあった。 それは速度を持たない走行で、地図にも載らない道を通る。 風が来た。 それは期待していたよりもずっと弱く、拍子抜けするほど短かった。 それでも彼女は小さくうなずいた。 たぶん、それで十分だったのだ。 世界は相変わらず不完全だったし、 午後はゆっくりと古くなっていった。 それでも、何かが確かに始まった。 音を立てず、誰にも気づかれないかたちで。
