細道の先にあるもの/スマホ壁紙アーカイブ
【細道の先にあるもの】 その路地は、地図にも名前がない。 曲がりくねった細い石畳を進むたびに、 過去が音を立てて振り返る。 玄関先に置かれた錆びたバケツ、 破れた障子の隙間から漏れる光、 そして、誰もいないのに感じる人の気配。 彼女は昔、ここで祖母と暮らしていた。 小さな台所で作られた味噌汁の匂い、 夏の夜に聞いた風鈴の音、 手を引かれて歩いたこの道。 何年も忘れていたはずなのに、 足元の影がそれを思い出させた。 ふと顔を上げると、 細道の先、かつての家が光に包まれて立っていた。 「おかえり」と言ったのは、風か、それとも記憶か。
