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【長編14】不死の福音
●SIDE:早渚凪 病室に一人残されてから数日。完全骨折していた足は、やはり治療にかなりの時間がかかります。ヒマをしている幽魅がちょいちょい病室に来てくれますが、霊現象を使ってもこの怪我は治せないようです。 「私、骨の構造とか良く知らないんだよねー。ただくっつけるだけなら出来そうだけど神経とか細かい所は自信無いしさぁ、うっかり変な事して余計に悪化させても悪いし、凪くんには自力で治ってもらうしかないかも」 「うん、大丈夫だよ」 「あ、でもね。凪くんが瑞葵ちゃんとエッチできなくてムラムラしないように、一時的に生殖機能を不能にしておいたからね♪」 「待って!?それ本当に元に戻せる!?戻らなかったらどうしてくれるの!?」 そんなやり取りをしていると、時々看護師さんに見つかり『独り言の多い患者』認定されたりもするのですが、まあ何とかさほど不自由なく過ごせています。 「しかし・・・まともに歩けるのは一年以上先かぁ・・・」 完治する可能性が高いだけマシなのでしょうが、この先が不安です。リハビリもあるし、先々の事を考えると気が滅入りそうですね。 そんなある日、夜の面会時間も終わる頃に一人の女性が私を訪ねてきました。 「こんばんは、早渚くん♪お加減いかがですか~?」 「あなたは・・・志愛さん!?」 江楠さんのお母さん、江楠志愛さん。なぜここに。 「真姫奈ちゃんに色々情報源があるように、お母さんも事情通なのね。テロリンの事件に巻き込まれて足を骨折しちゃったんでしょ?」 「ええ、まぁ・・・あっ、江楠さん呼ばないと」 スマホに手を伸ばしかけた私でしたが、そっとその手を志愛さんに押さえられました。 「だぁめ。前にも言ったでしょう、真姫奈ちゃんに会うのは呪いを解いた後だって。今はまだ、呪いが解けてないから。でも、そのおかげで早渚くんを助けられそうだから呪いも悪い事ばかりじゃないよ」 「助けられる・・・?どういう事です?」 私が首を傾げていると、志愛さんはグラスと果物ナイフを取り出して、ざっくり手首をナイフで切り裂きました。ぼたぼたと落ちる血がグラスに溜まっていきます。 「ちょ、し、志愛さん!?」 「大丈夫だよ、ほら」 志愛さんがグラスの口を手でガードすると、その手にかかった血しぶきやまだ滴っていた血は全て塵に変わって志愛さんの手首に吸い込まれていきます。そして何事も無かったかのように傷は塞がりました。さっきの出来事を証明するのは、グラスに溜まった血液だけです。 「早渚くん、これ飲んで。私の不老不死の力が宿ってるから、骨折くらいすぐ治るよ」 「えっ・・・」 そう言ってグラスを手渡されましたが、これ本当に飲んでも大丈夫なのかな。 「私自身が志愛さんみたいに不老不死になったりする感じですか、これ飲むと」 「ううん、そんな事にはならないよ。飲んだ血が体の中に残ってる間くらいかな、効果があるのは。前にも他の国で怪我人の子に血をあげた実績もあるから、無害無害♪」 ・・・まぁ、志愛さんは江楠さんと違って邪悪な感じはしないし、信じても大丈夫かな。私はグラスの中身に口を付けました。まだ体温の残る血液は、あの特有の味を濃厚に放っています。正直、マズい。 「ほらほらぐいっと、ぐいっと!一滴も残さないでごっくんしてごっくん!」 やめて、グラスの底を支えないで、一息つけないから!何とか私は全て飲み干しました。ベッドにこぼれなくて良かった、もしこぼしたら看護師さんに見つかって騒ぎになるところです。 「うん、これで明日には大分良くなると思うよ。じゃあね、おやすみ~♪」 「えっ、ちょ、志愛さん!」 志愛さんは手早くグラスを回収すると、素早く病室を後にしました。どうしよう、江楠さんに連絡するか?いやでももう間に合わないか、今回は行先も聞いていないし。仕方なく私は寝る事にして、ベッドに横になりました。 ●SIDE:江楠真姫奈 「やはり・・・か」 私はDNA鑑定の結果が印字された書類を見て、己の仮説が正しかった事を知った。 「塵と共に怪我が治癒する現象、21年前に上海で犯された母、そして中国マフィア・龍立(ロンリー)の屋敷前に捨てられた子」 書類が示すのは、AとBの親子関係を認める記述。Aは私の母、江楠志愛。そしてBはテロリン幹部、紅。 「母は2004年の5月に中国で強姦され子を孕み、2005年3月に紅を産み落とした。だが赤子を連れて旅など出来ない母は、やむなく立派な屋敷の前に紅を捨てた。マフィアの屋敷と知ってか知らずか・・・。そして紅は拾われ、殺し屋として教育される事になったのか」 早渚君のもたらした紅の奥歯がこんな事実を浮かび上がらせるとは・・・。実に因果なものだ。 「奴の不死身の能力は私の母から受け継いだものか。だが、どこの馬の骨とも知れん男の血が混じり半分に薄まった。ゆえに母ほどの能力では無く治癒の速度が遅い・・・不死には近いが殺せる可能性もあるか」 目撃談によれば母は老いず、死んでも復活するようだが、紅に関しては順当に年齢を重ねている事から考えても恐らく不老不死ではない。あくまで生命活動が停止していない場合に限った再生・治癒能力だとみえる。確証が持てないのが不安要素ではあるが。 「しかし、紅と私は異父姉弟か・・・まったく、とんでもない事実だ。こいつは伏せておかないと、私のアキレス腱になりかねん。早く奴を始末してしまわない事には安心できないねェ・・・しかしそうなると、徹底的に紅を殺し尽くすか、母の呪いを解く方法を見つけて紅にも適用するかしかないのか」 面倒な事になったが、やらないわけにもいかない。またシリア君たちにも声を掛けて、邪神絡みの事件に首を突っ込む必要がありそうだ。 「犯罪者に政治家にテロリンに邪神・・・まったく、敵の多い人生だよ」 私はライターを取り出し、DNA鑑定結果の書類に火を付けた。
