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【祭りのお面】ユニークな販売戦略
「うーん、参ったねぇ。ちっとも売れやしねぇ。昨日も今日も閑古鳥、ってかぁ?」 桜舞い散る今日この頃、俺は縁日でお面屋さんをやってるとこさ。売り物は見ての通り、剣道の防具の一つ『面』だ。お面屋さんだからなぁ。 あ?アニメキャラや特撮ヒーローのお面じゃねぇのかって?バッカヤロウ、他の店と同じもん売ってたってつまんねぇだろう。そこで剣道の面ってわけよ。 「一個1000円っていやぁ、破格も破格なんだがなぁ。普通は5桁するんだぜ?」 商店街で知り合いがやってるスポーツ用品店が店じまいってんで、剣道具の面だけをタダ同然で大量に譲ってもらったんだ。こりゃ儲けのチャンスだと思ったんだがねぇ。 これがちっとも売れやしねぇのよ、こんなに値下げしてんのに。まぁ、胴や小手、垂れが無ぇんじゃな。せめて竹刀単品だったら売れたかも知れねぇんだが、あいにく面しか無ぇときた。 「こうなったら、サクラでも雇って仕込みいれるかぁ・・・?」 「オルァ~~~~~!!!!!メンッ、メーンッ!!!!!」 竹刀をブンブン振り回しながら、剣道防具一式に身を包んだ男が縁日会場を駆け抜ける。 「うわぁ、何だ何だ!?」 「危ねぇなおい!警備員何してんだ!?」 縁日を楽しんでた連中は揃いも揃って腰を抜かし、悲鳴を上げてらぁ。ここで剣道男が高らかに一声。 「てめぇら、頭をカチ割られたくなかったら、さっさと剣道の面をつけるんだなぁ~~~~~!!!!!」 剣道男の大声に、周りの連中はびっくり仰天よ。 「剣道の面!?あいつ馬鹿か、そんなもんここにあるわけないだろ!」 「警察まだ来ないのかよ!このままじゃ本当に怪我人が出るぞ!」 「あっ、見てあそこ!都合よく剣道の面だけを格安で売ってるお店があるじゃない!」 連中の一人が俺の店に気付いた。後はもう、入れ食い状態よ。たちまち面は完売、そしてその頃には剣道男は姿を消してるってわけさ。 「あー、ダメだダメだ。んなアコギな真似ができるかよ」 俺は妄想を振り払った。バレたら雇った剣道男共々お縄を頂戴しちまう。お天道様に顔向けできねぇ商売なんざ、後で罰が当たるってもんだ。 「やっぱ、ガキに人気のあるお面じゃねぇと売れねぇんだな・・・」 さっきから俺の店の前を通り過ぎるガキどもは、日曜朝放送のテレビ番組のプラスチックお面ばっかりだ。 「・・・ん?あのガキ、カボチャ被ってやがる。ははは、気の早ぇ奴だな・・・待て、ありじゃねぇか?」 俺は実行委員のテントに走った。思った通り、余った提灯があった。幸い実行委員は顔見知りばかりだ、頼み込んで余った提灯を譲ってもらった。 「こいつをこうして、と」 オレンジ色の提灯を切って、剣道の面に貼り付けて顔を描く。するとあら不思議、完全にハロウィンのイカしたあいつだ。季節外れ感はあるが、ただの剣道面よりはガキに受ける確証がある。 「さぁ買った買った、カボチャお化けのお面はここでしか売ってねぇぞ~!」 看板を掛け替えて声を張り上げると、早速ガキどもが寄ってきた。思った通りだ、ハロウィンでカボチャを被るのはお菓子をねだるガキの役目だからな。 1000円って価格設定も良かったみてぇだ。ガキの小遣いからするとちっと高額だが、手が出ないほどじゃない。しかも元々本物の剣道面だ、チャチなプラスチックお面とは高級感が違う。 「おじさん、このお面ちょうだい!」 「ぼくも!」 ガキが集まれば、家族連れもやってくる。そして人が集まれば、剣道面にカボチャお化けの顔がついてるっていう物珍しさに買っていく奴も増えるって寸法だ。 「やっぱ商売はアイデアよ、知恵を絞った奴が笑うんでい」 ※4、5枚目はオマケの没画像です。恐れおののく人々の表情は良い感じに出たのですが、余計なテキストも書かれてしまったので没にしました。
