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【かぼちゃパンツ】ビオラの着替え
僕はメイドによって案内された部屋のドアをノックした。「どうぞ」という返事を聞いてドアを開け入室する。 「遅かったね、姉さん。お客さんって誰だっ・・・ふわぁ!?は、ハンス王子!?なんでぇ!?」 部屋の中では、藤色の長髪を揺らした美少女・・・いや、世間的には『美青年』とすべきか。そのビオラが着替えをしていた。白いドロワーズと、胸まで覆うレザーのコルセットしか身に着けておらず、くすみ一つない背中や肩、腋は僕の目に晒されている。 「たまたま近くを通ったところ、君の所の長女のパンジーが僕の馬車を呼び止めたのだ。僕に見て欲しいものがあると」 「それなら応接間でいいだろう!なんで私の部屋に来るんだ!」 慌てた様子でコルセットを調整し、少しでも胸が見えないように頑張るビオラ。だが固いコルセットでそれは無駄な努力と言うものだ。 「パンジーの指示で、この屋敷のメイドが僕をここに案内したんだ。着替え中とは知らず、申し訳ない」 僕は素直に頭を下げ、謝罪の意を示す。先日、『妻になってくれ』と申し出たのを断られた手前、旧知の中であっても素肌を見続けるのは良くないだろう。 「そ、そうか。・・・こほん。申し訳ありませんハンス王子、『僕』とした事が取り乱してしまいました。姉の不手際で『男の着替え』という見苦しいものをお目にかけてしまった事、お詫び申し上げます。どうぞ応接間の方でお待ちください。お茶の用意をいたします」 ビオラが『男』の演技を始めた。ビオラは実際にはこのマルフィ家の三女だが、対外的には『長男』として通っている。僕と自然体で話す時は『女』として話すが、一線を引きたい時なんかは『男』として振る舞いがちだ。今は『貴族として、王族たる僕をいるべき部屋に案内する』ため・・・というより、着替え見られて恥ずかしいから出てって欲しいんだろう。しかし。 「・・・男の着替え、か」 幼馴染のこの僕相手にまで、そんな線引きをしてきたのに少し不満を覚えた。普通に女の子の言葉として「出て行って」と言われていれば僕も従っただろうが、向こうが男として振る舞うなら、こっちも男扱いしても構うまい。僕はスツールに腰を下ろし、ビオラをじっくり眺める態勢に入った。 「は、ハンス王子?どうかされましたかな?」 「いや、ビオラの着替え終わりを待って一緒に行こうかと思って。何せ『男同士』だ。見ていてもいいだろう?」 僕の言葉にビオラは顔を真っ赤にする。格好を見る限り、今から脱ぐのではなくこれから着るところだから、女性の隠したい部位は見れないと思うがやはり着替えを見られるのは恥ずかしいようだ。 「お、王子はどうしてそういうイジワルを言うんだ・・・『私』が本当は女の子なの知ってるくせにそういう事言うなら、こっちにも考えがあるよ」 「ほう、どうするんだ?」 こちらは王族、あちらは貴族。身分の差により、あまりとんでもない事は出来ないだろう。僕はそう高をくくっていたのだが。 「・・・ハンスの事、嫌いになる」 目尻に涙を浮かべ、こちらを睨みながらそんな事を言うビオラ。僕の胸はぎゅうっと締め付けられた。 「・・・すまなかった。すぐに応接間に行くよ」 僕は部屋を退出した。思いのほか、ダメージは大きかった。求婚を断られた身だが、未だに僕は彼女に未練があるらしい。もう舞踏会まで日が無いのだから、早く心の整理をつけないといけないのに。 「お待たせしました、ハンス王子。こちらが見ていただきたかったものです」 そして応接間で待っていた僕の目の前に連れてこられたのは、女物のドレスに身を包んだビオラだった。 「これは・・・何と可憐な」 「い・・・言っておきますがハンス王子?これは僕の趣味では無くて、姉が僕を着せ替え人形にして遊んでいるだけですので、どうか誤解なさらないよう」 普段僕の目の前に出る時、ビオラは男の格好をしている。そのためか、かなり恥じらいを覚えている様子だ。ただ、王子の目の前から逃げ出す無礼を働く訳にも行かず懸命に耐えている。そんなビオラを尻目に、パンジーは説明を始めた。 「今度、王城で舞踏会をお開きになるのでしょう?私の夫の親戚からも一人参加させていただきますが、その子に新しいドレスを贈りたいと夫が申しておりまして。ただ、その子は公務で忙しくしていて、舞踏会までに新しいドレスのフィッティングの時間が無くて。それで背格好の似たビオラに代わりに着てもらって、どんなドレスを贈るかの候補決めをしていたのです」 「成程、王城主催の舞踏会に出るとなればドレスを新調する貴族も多いからな。だが、何故僕に見せようと?」 その事情なら、僕・・・王族にわざわざ報告したりする義務などないはずだ。 「先日ビオラは、非常に残念な事にやむなく王子の求婚をお断りしてしまいましたでしょう。せめて可愛らしい格好でもご覧になって、目の保養としていただければ幸いかな、と愚考いたしましたの」 「本当に愚考です、姉上。ハンス王子が僕への未練を断ち切れなくなったらどうする気なんですか」 確かに、ビオラの格好はとても女性らしい。普段男性として振る舞われている分、余計に女らしさというものを感じてしまう。もしやマルフィ家は僕が道理を捻じ曲げてでもビオラを攫う事を期待しているのだろうか。 「パンジー、感謝する。だがビオラは『男』だ。僕の妻にはなれない。・・・もう、決めた事なんだ」 「ハンス・・・」 僕は先ほどからの揺らぐ気持ちを断ち切る意味で、自分の口でそう言った。パンジーは少し残念そうな目で僕を見る。長女・次女ともに既に嫁いでいるマルフィ家としては、三女ビオラが僕に嫁ぐ可能性がか細くでも残っている最後の希望だったのだろうが、ここはビオラもそう決めている通り、きっぱり断っておかないといけない。 「・・・肩が出ているドレスの方が王子様の好みだったかしら?」 「姉上!もう!いい加減になさいませ!」 パンジーの言葉で、ビオラのオフショルダードレス姿を想像してしまった。・・・なんて弱い僕の意志。情けなくなってしまった。 せめて舞踏会で、ビオラの存在を吹き飛ばしてくれるような女性が目の前に現れてくれればいいのだが。
