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【公園デート】向日葵ちゃん危うし!
天気の良い今日は、玄葉の買い物に付き合っていました。その帰り、少し公園のベンチで休んでいた時の事です。 「ねぇお兄、あのナンパされてる子向日葵ちゃんじゃない?」 「えっ?」 玄葉が指差す先、あまり治安のよくない格好をした若い男たちが向日葵ちゃんを囲んでいました。一際浮ついた感じのするチャラ男が向日葵ちゃんに迫っていて、向日葵ちゃんは迷惑そうな顔。 「周りの人たち、怖がって避けてるみたい」 「うん、何か危険そうだよね。顔見知りじゃなきゃ見捨てちゃうか」 私はベンチから立ち上がり、余計な荷物は置いて行きます。 「玄葉、ヤバそうだったら警察呼んで」 「う、うん」 私は足早にチャラ男たちに近づくと、向日葵ちゃんに声を掛けます。 「こんにちは、向日葵ちゃん。この人たちは知り合い?」 「あっ、早渚さん!違います、タチの悪いナンパです」 私を見つけた向日葵ちゃんは、少しほっとしたような、でも緊張感を残した複雑な顔。チャラ男は向日葵ちゃんの言葉に眉間にしわを寄せました。 「違わないじゃん。オレ一応お前の元カレなんだけど?」 「もう五年も前、しかも数日しか付き合ってないでしょ!」 「ああ、成程ね。そんな浅い付き合いで偉そうに元カレとか言ってヨリを戻そうとしてるのか。カッコ悪」 意図的に彼らの神経を逆なでしそうな言葉を使い、私に注意を引こうとしてみます。結果は上々、周囲のチンピラもまとめてこっちを見てくれました。 「おいおっさん、お前関係ねーだろ。邪魔だから消えてろ」 「馬鹿言っちゃいけないよ、知り合いの女の子が本気で困ってるのに見捨てるわけないでしょ。邪魔なのは君らだよ。周りの人たちも君らを歓迎してないの空気で分からない?大人数で女の子を囲むとか、ダサいって思わないのかな」 「なめてんのか。おい、このおっさんぶっ殺してやれ」 どうやらチャラ男はチンピラのリーダー格みたいです。彼が指示を出すと、チンピラ二人が素早く私の両腕に取りつき、三人目が腹に膝蹴りを入れてきました。しかも手加減とか全く無し。思わず息が詰まります。 「早渚さん!」 「あー、このおっさんの事心配かな?じゃあさ、オレらの言う事聞いたら止めてやるよ?簡単じゃん、ただオレの家来て服脱いでオレら全員に股開くだけでいいからさぁ」 クズめ。ていうかマズいな、私のせいで逆に向日葵ちゃん逃げにくくなってる。玄葉、膝蹴り見て警察呼んでくれたかなぁ。 「くぅ・・・」 「向日葵ちゃん、心配ないよ。こんな奴ら、所詮群れなきゃ女の子一人にも声掛けれないような臆病者ばっかだから」 「何イキってんだよ、状況考えろよおっさん」 今度は頬にパンチ。喧嘩慣れしてるのかな、他人に暴力振るう事に全然躊躇ない。 「ほら向日葵、早くしないとマジでおっさん死んじゃうぜ?」 うーん、確かに。力強くて振りほどけないし。警察早く来ないかな。さっきのパンチで視界が眩むし、意外と限界近いかも知れない。 「つかさ、調子乗って出てきたクセにこのおっさんめっちゃ雑魚じゃね?ダサいのはどっちだよっての。人助けなんてダサくてバカな真似するからこうなるって勉強しとけ?」 「ダサくてバカで悪かったな?」 不意に野太い声が響き、チャラ男の後ろに大柄な影が立ちました。そのまま、チャラ男は腕を背中側にねじり上げられます。 「ぎゃあ!」 「えっ・・・ふ、深海さん!?」 ぼやけた視界が少しずつ戻って来ました。見ると、チャラ男を捕まえているのは深海です。 「離せよ!何だテメェ!」 「お前が言うところのダサくてバカな事を一生懸命やってる救助隊員さんだが?」 体格で完全に勝る深海は、チャラ男が大暴れしたところで全く動じていません。チャラ男は振りほどけないと悟ったのか、チンピラに向けて叫びました。 「おい、お前ら何してる!早くこいつも殺せ!殺さんかー!」 しかし、チンピラたちも深海の体格に怯えて動けません。見ただけで『勝てない』と分かったんでしょう。 「うるさいよ」 深海はさらに力を入れ、チャラ男の関節を無理な方向に曲げました。意味をなさない絶叫がチャラ男から吐き出されます。深海は少しだけ力を緩めると、チャラ男に対して全く平坦な調子で話しかけました。 「痛いか?」 「いっ痛い!!」 「助かりたいか?」 「助かりたい助かりたい」 「だめだな」 「えぎ~~~~~!!」 深海の視線が険しくなり、腕に血管が浮き出て筋肉が膨らみました。今度は緩める事無く、ギリギリとチャラ男の腕を捻りあげます。 「そっそんな やめてとめてやめてとめてやめてぇ!!」 ゴギン。と関節が外れる鈍い音が公園に響きました。 「とめった!!」 チャラ男は口から泡を吐いて気絶してしまいました。深海はチャラ男を放り出すとチンピラたちに視線を向けて、 「こいつを連れて消えるか、こいつと同じ目に遭うか。選べ」 と一言。彼らは大慌てでチャラ男を抱えて逃げていきました。 「ふぅ。早渚、向日葵さん。大丈夫か?」 「わ、私は大丈夫です。でも早渚さんが」 「私も平気だよ。ちょっと殴る蹴るされた程度だし」 口の中は切れて血の味がしてるけど。 「はは、そうだな。中一の時よりはマシだよな」 「えっ?」 向日葵ちゃんが不思議そうな顔で深海を見上げます。あ、それ黙っててほしい。 「体育委員だった早渚が授業後に道具を片付けてたところにうっかり体育倉庫の鍵を閉められて閉じ込められてな。天井から脱出したんだが、途中で天井裏を踏み抜いて女子更衣室に落ちたんだよ。で、着替え中のクラスメイトの女子たちにボコボコにされた」 「ラブコメ漫画の主人公みたいな事してますね」 あれは死ぬかと思った。社会的とかより先に物理的に。団結した女子って超強いんだよね。 「お二人とも、助けに来てくれてありがとうございます」 向日葵ちゃんが私たちに頭を下げます。実質役に立ったの深海だけだけど。 「いや、私は役に立たなかったよ。深海がいてくれてよかった」 「まぁ、これでも救助隊員だからな。海じゃなくても目の前で困ってる人がいれば助けるさ」 頼もしいな。深海がいつもこの町にいてくれればいいのに。 「深海、いつまでこの町にいられるの?」 「今日にも帰るよ。元々知り合いに会いに来ただけなんだ。次に会うのは海の上かもな」 それ、要するに私たちが要救助者になった時じゃん。向日葵ちゃんもそう思ったのか、若干苦笑い。 「ふふ、じゃあ海の上で私たちがピンチになってたら、その時は助けて下さいね?」 「ああ、任せろ。俺の手の届く範囲なら、必ず助ける。約束するよ」 と、その時パトカーのサイレンが聞こえてきました。深海は若干気まずそうな顔。 「あ、すまん。俺はここにいなかった事にしてくれんか。救助隊やってる人間が暴力を振るったとなりゃ、外聞が悪いからな」 「ええ?ちゃんと事情を話せば大丈夫だと思うけど」 私はそう言ったのですが、深海は足早に去ってしまいました。 「お兄、大丈夫?」 深海がいなくなったのを確認して、玄葉が駆け寄ってきました。 「すごい心配したんだから。帰ったら一緒にお風呂ね。ケガが無いか見てあげる」 「ちょ、玄葉!」 ああ、向日葵ちゃんの視線が冷たい。 「何なら瑞葵向かわせましょうか?」 「絶対やめて」
