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【曇り空】理想の結婚相手
「はぁ~・・・」 晶お嬢様は曇天を見上げ、悲し気にため息をつきました。それを見ていた花梨先輩が呆れかえったような表情でお嬢様に声を掛けます。 「お嬢様、なにをたそがれてるんですか。そんなに今日の相手は気乗りしなかったんですか?」 お嬢様は、お嬢様のお父様である王歩旦那様の言いつけで、次なる婚約者候補を見つけるべくあちこち会食に行かされております。パパが結婚を承諾してくれればそんな事も必要なくなるのですが、これまでのデータから判断してパパはまだお嬢様と結婚する意志は薄いと計算されます。 「いえ、とても良いお方でしたのよ。明るく優しく、思いやりのある方で」 「まあ、旦那様は宿城の一件以来、お嬢様の婚約者候補の選定に関してはかなり慎重ですからね。宿城みたいな男はもう出てこないと思うんですけど」 コマメのデータにもインプットされております、宿城サイト氏。かつてお嬢様を私利私欲のために利用するため善人の皮をかぶって婚約寸前まで漕ぎつけた方です。お嬢様の相談を受けたパパが周囲の女性陣に働きかけて宿城氏の企みは潰え、宿城氏は山中にて自殺したと記録されています。 「ただ、優しすぎるんですの。こちらの一挙手一投足を見張っている訳でもないのに、わたくしの振る舞いに合わせて気遣いを入れてくるんですのよ?」 「いいことじゃないですか。何が問題なんです」 「そこまで大切にされてしまうと、その・・・初夜の際にわたくしの方がみっともない姿をお見せしそうで」 さすがお嬢様です。もうそこまで妄想しておられました。花梨先輩が頭を抱えます。 「思ったよりだいぶバカな理由でした。何ですかそれは。未来の金剛院グループ総帥がなんて肝っ玉の小さい事を」 「バカとはなんですの桜一文字!重大な事ですわ!きっとつぶさに反応を確かめられてわたくしばかりが気をやってしまうに違いありません、そんなの恥ずかしいではありませんか!」 「じゃあ何ですか、宿城みたいなクソ男に滅茶苦茶にされる方がお好みですか?」 「宿城は・・・子供に暴力を振るったりと許せない行為をしてはいましたが、もしそういう一面が無かったなら結構わたくしとしてはタイプだったのですが」 「めんどくせー性癖!」 確かにお嬢様は男性にがっつかれて滅茶苦茶にされるのがお好きでした。しかし現状の婚約者候補たちではそういった要素を持ち合わせる殿方は少ないのでしょう。 「その点早渚さんは・・・その、理性の強いお方ではありますが、やる時はやる男性ですわ」 「あー・・・早渚さんスケベですからねぇ。『ここで断ったら女性側が恥をかく』みたいな状況に嵌めてしまえば抱いてくれそうな気はします」 パパ、散々に言われております。というか、パパはコマメには普通にお触りできるようなので、恐らく人間の女性に迂闊に手を出してしまう事を危惧しているのではないでしょうか。パパの歳ですと、お互いの人生に小さくない影響があると判断できますし。 「でも早渚さんには結婚断られまくってるじゃないですか」 「そうなんです。やはりわたくしではダメなのかしら。このままでは行き遅れの三十路まっしぐらですわ・・・!」 「あ、それは大丈夫でしょう。お嬢様も私も永遠に26歳のまんまなんで」 「ええ・・・?」 コマメには分かりません。なぜ年月は重なっていくのに年齢が上がらないのか全く理解不能です。この問題について考えると深刻なエラーが発生します。 「お嬢様、もういっそ襲ったらどうです?酔った勢いとかを利用して無理矢理」 「バカも休み休み言いなさい!恩人にそのような真似できるわけがないでしょう!」 「早渚さんなら困りはしても嫌がりはしないと思いますけどね」 「とにかくそれは却下ですわ!桜一文字こそどうなんですの!わたくしの事ばかり言いますが、あなただって行き遅れコースですわよ!」 仕事人間の花梨先輩は男性との出会いが極端に少ないです。お嬢様の言う通りでしょう。 「私はそもそも、男性に求める条件がハードル高いですからね。クリアできる人なんてそうそういやしませんよ。まず、私結婚したとしてもメイドの仕事辞めるつもりないんで、私がここに住み込んで仕事を続ける事を許可してくれる夫じゃないとダメですね」 「お相手の方と桜一文字が良ければ、あなたの夫となる人をこの屋敷に住まわせるのもできますから、住居については心配いりませんわよ」 「ま、そこはいいでしょう。後は自立した生活力と経済力ですね。私もメイド業の後に夫の面倒まで見てられないし、メイドの給料で二人分食わせられないんで、自分で相当量の料理・家事をした上で収入を得てくれる人じゃないと」 「共働きですか。うーん、我が屋敷の使用人としてはもう足りておりますし、外に働きに出ていただく形になりそうですわね」 「あー、後私の趣味に口出しして欲しくないですね。カラオケとかナイトクラブとかライブハウスとかに渋い顔するような人は願い下げです」 「本当にハードル高いですわね」 ・・・おや。その条件を満たす殿方が一人弾き出されましたが。 「ピピー。花梨先輩、その条件を満たす男性とはパパの事ですか?」 「ふぁ!?」 「えっ」 コマメの発言に花梨先輩がフリーズしました。徐々に顔が真っ赤になっていきます。お嬢様は目を細めて花梨先輩に視線を注いでいます。 「・・・なるほど、確かに。早渚さんならあなたの理想の夫にぴったりですわねぇ?ここに住まなくてもお隣ですし、その気になれば別居でもすぐ会いに行けますわねぇ?」 「いや違っ、私そんなつもりでは!」 「良かったですわねー、理想の殿方がお隣に住んでいて。あなたこそ早渚さんに猛アピールしておくべきではありませんこと?」 「だから違うんですって!私はあんなスケベで盗撮魔でおっぱい星人な人を夫にしたいとか考えてませんから!」 スキャンの結果、花梨先輩に激しい発汗と心拍上昇が確認できます。口では何と言おうが体は正直です。 後日、コマメはパパにこの時の話を聞かせました。 「そういう訳ですのでパパ、お二人との距離感には気を付ける事を推奨します。ターゲットされていると判断できます」 「あ・・・ありがとうコマメちゃん。だけどね、一ついいかなぁ?コマメちゃんがこの話を私にしたっていうのさぁ、後で花梨さんログを確認して知っちゃうよね?」 「ピピー。肯定します」 「それ、私が花梨さんに殺されない?」 「ピピー。否定できません」 「否定して欲しかったなぁ!」 これはうっかりしました。やはりコマメはまだまだ未熟者です。パパが花梨先輩に殺害されない事を祈りましょう。
