【【ツーサイドアップ】サマーフェス中毒事件

●SIDE：早渚凪 『次のニュースです。昨日、狗取府（くとるふ）の流涙衣市（るるいえし）にて開催されましたCSM（クトゥルフ・サマー・ミュージックフェス）ですが・・・』 私と玄葉が食後にテレビを見ていると、ニュース番組に見知った顔が。アイドルをやっている天ノ杓エリスロさんです。映像はどうやらフェス中のライブを撮影したもののようですね。 「あ、天ノ杓さんだ。CSMに出てたんだね」 「CMに出るくらいのアイドルだし、出ててもおかしくないでしょ」 私たちはそんな話をしながら画面を見ていたのですが、次の瞬間私たちの想像もしなかった方向に話が転がりました。 『多数のアーティストが出演するステージの最中、大規模な中毒事件が発生しました』 「中毒事件！？」 音楽フェスで中毒ってどういう事だ！？ブースで提供されてる料理で食中毒が起きたとかだろうか。 『CSMは例年猛暑となる事もあり、熱中症対策も兼ねて今年も例年通り、客席に向けて放水装置でミスト状の水を断続的に放水する演出が取られていました。その装置に水を送るポンプ内に、大量のヒ素が混入されていたとの事です。観客の中にはヒ素が皮膚や目にかかったり、ヒ素を吸引してしまう事による健康被害が多数発生し、大勢の観客が緊急搬送される事態となりました。正確な被害人数は不明ですが、死亡したケースは現時点で確認されていないとの事です』 「うわ・・・悪質」 玄葉がそう呟き、ニュースの内容をスマホで調べ始めました。すると間も無く、私にスマホの画面を見せてきます。 「お兄、これ犯人の投稿かも。ただの目立ちたがりかも知れないけど、すごい炎上してるし多分本人じゃない？」 見ると、SNSで『CSMヒ素事件は俺の功績。整備スタッフとして潜り込んで、ポンプに仕込みをしてやった。毎日苦しみながら生きてる人間がいるのにのうのうとフェスに遊びに来るような頭空っぽのクズどもには鉄槌がお似合いだ。テロリーン！』と投稿し、ものすごい数の批判コメントがついている投稿が。しかし一番気になるのは最後の一言です。 「テロリーン・・・って、これまさか」 「お兄もそう思う？」 国際テロ組織テロリン。その犯行予告などの際、この『テロリーン！』というどこか気の抜けた電子音を鳴らすそうです。この投稿はそれを真似して文字として書き起こしているのか、それとも本物のテロリン工作員なのか。 「狗取府流涙衣市って確か、江楠さんの地元だったな。後で江楠さんにこの件どう思うか聞いてみよう。多分あの人の事だから何か情報持ってるだろうし」 「また日本で騒ぎを起こしてるってなったら、かなり警戒しておかないとだしね。幽魅さんにも声掛けて、怪しい動きをしてる人がいないか気を付けてもらうようにしとく」 しかし、まさかこの短期間でまたテロリンの名前を意識する事になるとは。しかもこれ、一歩間違えば天ノ杓さんも巻き込まれてたんだよな。知らない人だから被害者になってもいいとは言わないけど、顔見知りが被害者になるのは余計に辛いし巻き込まれなくて良かった。 ●SIDE：天ノ杓エリスロ 「う～ん、ヒ素ミストは効果がいまひとつですねぇ。直接飲ませるのと違ってタイムラグ無しに一気に中毒状態にできると思ったけど、ミストになった分薄くなって効果も不足かぁ。やっぱり紅様の爆弾が欲しかったなぁ」 自宅でニュースを見ながら呟く。部下がアイデア出ししてきたから私のステージでやらせてあげたけど、やっぱりそう上手くは行かないみたいだ。 「今頃は自宅でヒ素飲んで逝ってますかねぇ、仕掛けた彼」 基本的にテロリンの工作員は自分の命を軽視しがち。やりたい事をやったらこの世から退場する人は少なくない。 「あ～あ、豪華客船でやる方の作戦みたいなド派手な奴がやって見たいですねぇ・・・そうなると、私の得意分野の毒物でやるならガスが一番向いてるかな～」 毒ガスを使って、密閉された大ホール中の観客を皆殺しに出来たら紅様も褒めてくれるかな。そのためにも、まずはもっと知名度を上げないと。大きなライブが出来るように。 「しばらくは地道にアイドル活動を頑張らないとですねぇ」 私はテレビを消してスマホを見た。マネージャーが後5分で迎えにくるという連絡が来てる。・・・5分前に。 「じゃあ、今日も張り切っていきますかぁ～！」