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ひまわり chapter2
照りつける太陽に、海面がきらきらと反射していた。 親戚一同がわいわい騒ぐ浜辺は、すでに小さい子たちの声であふれていて、ビニール浮き輪や砂遊びセットがそこら中に転がっている。 「○○っち、あっち行くっすよ」 瀬颯 向日葵が、濡れた足で砂を蹴りながら近づいてきた。 短く刈った黒髪に、ひまわりのヘアアクセサリー。健康的に焼けた褐色の肌には、競泳水着の跡がしっかりと浮き出ていて、今まさにその競泳用の水着を身に着けている。まるで部活帰りのようにすっきりとしたラインは、シンプルなのにどこか目を奪われる。 「……あれ、それ、いつもの?」 「ん? ああ、これ? 練習用っすよ~。派手なやつ、荷物に入れ忘れたっぽくて。ちょっと地味っすけど、まぁ機能性はバッチリっす」 そう言って、軽く腰に手を当て、海から吹きつける風に髪をなびかせた。 日焼けした鎖骨のあたりが汗と潮で艶やかに光り、見てはいけないと思いつつも、視線を泳がせてしまう。 「○○っち、顔赤いっすけど、日焼け? それとも——照れてる?」 「べ、別に……暑いだけ」 笑ってひまわりのように輝く向日葵の横顔が、なぜか昔よりもずっと大人びて見えた。 昔はただの“遊び友達”だったはずなのに、こんな風にドキドキするなんて。 「それにしても、久々に海で泳げるの嬉しいっすね。部活ではプールばっかだから、こういうの新鮮っすよ」 「部活、大変なんだろ? 全国まで行ったって聞いた」 「んー、まぁ、それなりに? でも水の中にいると、いろいろ忘れられるっす。勉強も、悩みも、全部水の音にまぎれてくから」 その言葉に、妙に説得力があった。 水面を見つめるオレンジ色の瞳は、冗談を飛ばしていたさっきとは違って、どこか落ち着いた光をたたえていた。 「○○っちは、泳がないんすか?」 「……俺、あんまり得意じゃない」 「ふふっ、知ってるっすよ。昔、浮き輪手放せなかったもんね」 ふっと向日葵が笑うと、潮風がふたりの間をすり抜けた。 その瞬間、どこからか声が響いた。 「おーい! スイカ割り始めるぞー!」 向日葵がちらりとそちらを見て、肩をすくめた。 「呼ばれちゃったっすね。行くっすか、○○っち」 そう言って手を差し出す彼女の手は、昔と同じようで、少しだけ遠く感じた。 僕は小さくうなずいて、その手を取った。心臓が、ほんの少しだけ跳ねた気がした。
