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ひまわり chapter3
夜の空気が、少しだけひんやりとしてきた頃。 田舎の小さな夏祭りは、提灯の灯りと、屋台の笑い声で賑わっていた。 ヨーヨー釣りに夢中な子どもたち、酔っぱらった大人たちの笑い声。 その中で、僕はどこか居場所のない気分で、金魚すくいの水面をぼんやりと見つめていた。 「○○っち、いたっすか」 その声に振り返ると、目の前に立っていたのは瀬颯 向日葵だった。 ひまわり柄のミニスカート風の浴衣。濃い褐色の脚がすらりと伸び、太ももに残る競泳水着のくっきりとした日焼け跡が、無防備に露出している。 いつも見慣れていたはずの向日葵が、今夜はまるで違って見えた。 「え、えっと……浴衣、似合ってるね」 「でしょ? お母さんがコーデしてくれたっす! ちょっと動きやすくて、いつものよりアクティブ系っすよ~」 向日葵は笑って、軽く回ってみせた。 そのたびに浴衣の裾から太ももがチラリと見えて、鼓動がほんの少し、速くなる。 刺激が強すぎて、目のやり場に困ってしまう。 「そうだ、○○っち。花火、そろそろ始まるっすよ。……いいとこ、知ってるっす。行こ」 手を差し出されて、思わず黙ってうなずいていた。 彼女の手は小さくてあたたかくて、でもしっかりしていた。 人混みから離れて、山道を少し上ったところにある、神社の裏手。 そこは町の灯りも届かず、星がよく見える静かな場所だった。 やがて夜空に、大輪の花火が咲く。 「うわぁ……やっぱ、ここ、最高っすね」 向日葵は石段に腰を下ろし、あぐらをかくように座った。 短めの浴衣から覗く膝と太ももが、花火の光で淡く照らされる。 僕は隣に腰を下ろした。 「……なんか、大人になったね、向日葵」 「ん? どういう意味っすか?」 「いや……その、なんでもない」 向日葵はクスクスと笑った。 「ふふ、○○っちって、昔から正直っすよね。隠しごと、顔に出るタイプっす」 花火の音がまた空に咲いた。 見上げたその横顔は、火の粉のようにきらきらしていて―― 子どもの頃の向日葵とは、もう違う。 ふと、彼女の手が僕の手に触れる。 「……冷えてきたっすね」 そう言いながら、彼女はそっと指を絡めた。 言葉が出なかった。けれど、不思議といやじゃなかった。 ただ、二人で夜空を見上げながら、花火の音を聞いていた。 遠くの喧騒から離れた、夏の、秘密みたいなひとときだった。
