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【タイツ】菫とジャッカルと網タイツ
忍菱菫は真剣な面持ちで自らの服装を確認した。手裏剣柄のTシャツに黒いホットパンツ、そして網タイツ。得心がいったのか、一つ頷いた。 「クリティカル、なーにやっとるんジャ?」 ジャッカルが少し呆れたような表情で問いかける。彼は夏だというのに着物と袴姿、そして何よりふわふわの狐耳と尻尾。見ているだけで暑い格好だ。 「何って、私服のコーデチェックよ。この網タイツ、くノ一っぽくていいと思わない?」 「ぽいも何も、お主は元々くノ一なのジャ・・・」 菫は忍びの里で生まれ育ち、忍者としての修行を積む毎日を過ごしていた。 「普通の人たちの暮らしの中にいると、だんだん忍者としての日々を忘れそうになるからね。こうやって服装の中に忍者要素を入れて、感覚を失わないようにしとかないとでしょう」 「・・・お主の里を復活させるには、まだまだ混沌の魔力素が足りないのジャ。願いを叶えるには、かなり時間がかかりそうなのジャ・・・」 ヤバーイ襲来によって里は滅ぼされ、ただ一人の生き残りとなった菫は『復讐』のためにジャッカルと手を組んでマジカヨクリティカルに変身、ヤバーイと戦いながら『里の皆を生き返らせる』ために混沌の魔力素を集めている。混沌の魔力素はまさに奇跡のような魔法を起こす事が出来る力だと言われているが、自然界には存在しない。混沌の魔力素は善の魔力と悪の魔力がぶつかり合う事で生まれるため、クリティカルはなるべく戦いが長引くようにマジカヨ三人衆とヤバーイの戦いに介入しているのだ。 「というか、夏なんだから網タイツとか無くてもいいと思うのジャ。素足の方が涼しいと思うのジャ」 「人一倍暑そうな格好してる子に言われたくないんだけど。・・・そうだ、ジャッカルにも網タイツ履かせてあげる」 菫はにやりと邪悪な笑みを浮かべた。 「えっ!?い、嫌なのジャ!ワシは男の子なのジャ!網タイツなんて可愛い女の子が履くものなのジャ!」 「可愛い男の娘が履いてもいいじゃない。都合のいい事にくノ一衣装もあるわよ」 「なんでそんなもんがあるのジャ!?あっ、く、クリティカル、やめ、やめるのジャ・・・!ああ~~~っ!!」 数分後、可愛らしいくノ一衣装に身を包んだジャッカルの姿がそこにはあった。顔を真っ赤に染めて短い裾を必死に押さえつけ、下着が見えないように頑張っている。 「うんうん、可愛い可愛い。ほら、下半身が心もとないでしょう?網タイツがあった方が安心感ない?」 「そもそもくノ一衣装じゃなくて普通の忍者装束にしてくれればいいのジャ!ていうかなんでワシの方がクリティカルより小柄なのに、ワシにぴったりのくノ一衣装があるのジャ!?クリティカル、お主いつかワシに着せようと狙ってたのジャ!クリティカルは破廉恥なのジャ!」 「・・・ねぇ、変身してない時はクリティカルって呼ばないで欲しいんだけど。何か連呼されるとくどいわ。菫って呼んでよ」 「えっ」 途端にジャッカルは黙り込んでしまう。菫はその様子を見て、目を訝し気に細めた。 「・・・さては、女の子を下の名前で呼ぶのが恥ずかしいのね?」 「ちっ、ちち違うのジャ!そんなわけないのジャ!」 どう見ても図星の反応だった。 「ジャッカル、あんたね。いい加減私には慣れてくれてもいいんじゃないの?目も合わせられなかった最初よりはマシになったけど」 「そ、そんなのワシの勝手なのジャ!ヤバーイとの戦いにおいて迷惑はかけてないつもりなのジャ!」 「まったく、どんだけシャイボーイなのよ。せっかく女の子を意識しなくて済むように、私が毎日一緒にお風呂に入って頭から体まで丸洗いしてあげて、毎日一緒のお布団で寝てあげてるっていうのに」 「それのせいで余計に意識しちゃうのジャー!」 マジカヨ三人衆とタスカルの関係性と違い、菫とジャッカルはマンツーマンのペアなので、その分親密度も高いのである。なので菫としては『弟を可愛がる』ような感覚で接しているのだが、ジャッカルにとってはそんな風に思えないようであった。 「そう言えばさっきも、『網タイツは可愛い女の子が履くもの』だって言ってたわね?という事は、私の事は可愛い女の子と思ってくれてるのね?ふぅ~ん・・・そっかそっか」 「ぴゃっ・・・あ、あぅ・・・う、うるさいのジャ!・・・あっ、ヤバーイが町に現れた気配なのジャ!ほらほらクリティカル、出撃なのジャ!」 「誤魔化したわね・・・分かったわ、行くわよ。ジャッカルも着替えてる時間無いから、その恰好でついて来なさい」 「い、嫌なのジャー!」 菫は今日もマジカヨクリティカルとしてヤバーイと刃を交える。彼女が復讐の鬼とならずに済んでいるのは、こんな風に日常を支えるジャッカルの存在が大きいのかも知れない。
