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【ジョギング】ヴァニラの早朝ジョギング
「♪(たんったんったんっ)」 早朝、跳ねるように森の中を駆けるヴァニラ。私は箒に乗ってその隣を飛ぶ。これはヴァニラの性欲を発散させるための、朝のジョギングである。とはいえ、ヴァニラの走るスピードは私よりずっと早いので、私は箒飛行でついて行くのだが。 「しかし、できればせっかく作った体操着使って欲しかったなぁ」 裏地に一工夫したあの『乳首に優しい体操服』は、夏で暑いからなのかあんまり着てくれない。結局この乳暖簾スタイルで走りたがるので、滅多に男性に会わない時間帯+滅多に人の来ない森コースを選んでいる。 「♪(ぴょんぴょん)」 時々ヴァニラは、先行してはこっちを振り向いて軽くジャンプする。『一緒に走らないの?』とでも言いたそうだ。残念ながら私にそんな体力はない。と、道の向こうに赤い人影が。 「ヴァニラ、危ない!人がいるからぶつからないで!」 「♪」 ヴァニラは後ろを向いたままでもちゃんと止まり、接触事故を回避する。大きな耳でその人の足音に気付いていたのだろう。 「あれ?ラファエル様じゃないですか。おはようございます」 「あら、お早うございますヒマリさん、ヴァニラさん」 「♡(ぴょんぴょん)」 相手はラファエル様だった。赤いジャージを着て、顔にはうっすら汗。どうやらこっちと同じくジョギング中だったみたいだ。 「ラファエル様もジョギングですか?」 「ええ。じ、実はお恥ずかしい話なのですが、少しその、体つきが・・・」 うーん、まあ聖女様だから普段そうそう激しい運動しないだろうし、油断したのか。でもそんなに変わって見えないけどな、お腹周りとか。 「どれくらい、ですか?」 「アンダーは変わらないのですが、トップが3センチほど・・・増えてしまって」 そう言ってラファエル様はバストを持ち上げる。いや胸かよ!しかもアンダー変わってないのにトップが増えただと?こっちは11歳の時から変わってねえのに・・・。 「・・・おかしいですね?私の能力で怒りや敵意といった感情は抑制されるはずなのに、なぜかヒマリさんから憎悪のようなものを感じるのですが・・・」 「気のせいです」 ・・・ラファエル様の信力の影響を貫通するほど殺意が高まってたらしい。抑えねば。 (シャクシャクシャク・・・) 私がラファエル様と会話を始めて足を止めてしまったからか、ヴァニラは人参をシャクシャクと食べ始めてしまった。いけない、ゆっくりしてると人目が増えてしまう。 「ラファエル様、頑張って下さいね。・・・ちなみに、ちなみにですけど。増えた原因とか心当たりはありませんか」 「食生活や日々のお務めに特に変化はありませんが・・・困っちゃいますね」 くっそ、役に立たねえ。やはり魔法に頼るしかないか。私とヴァニラはラファエル様と別れ、女子寮への帰り道を急いだ。 「25歳のラファエル様がまだ成長できるんなら、17歳の私に伸びしろが無い訳がない・・・!ヒマリのHはHカップのHだって言われるくらいになってやるからな・・・!」 先行するヴァニラが『フゥー』と息を吐いた。 「おい、今の息継ぎじゃなくて溜息だろ。何が言いたい」 ヴァニラは答えず、全速力で走りだした。こっちも箒のスピードを最大にする。早朝の森で、熾烈なデッドヒートが始まったのだった。
