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美月お嬢様の華麗なる食卓 三食目
放課後の教室。机の上に置かれた大きな箱から、香ばしい匂いが広がる。 「みんなでピザ食べよー!」とクラスメイトたちが歓声を上げる。 香ばしい匂いが一気に広がり、鵜飼美月は思わず眉をひそめた。 「……まぁ。丸い生地にチーズと肉片を散らして直に手でつまむ? なんと下品で庶民的な食べ物かしら」 そう言いながらも、視線は箱の中に釘づけだった。 ――とろりと溶けたチーズが糸を引き、黄金のように輝いている。 「……な、なぜあのように伸び続けるのですの? まるでミケランジェロの彫刻から黄金の糸が紡ぎ出されるかのよう!……」 「美月さんも食べる?」と友人が笑顔で差し出した。 「け、結構ですわ。わたくしはこのような庶民的な……」 ――ゴクリ。 「……い、いえ。研究目的で一口だけなら。文化的探究心というやつですわ」 ピザをつまみ、恐る恐る口へ。 ――瞬間。 「ち、チーズの洪水っ! 舌上にナイアガラの滝が流れ込んでくるようですわ!」 「トマトの酸味が陽光のごとく差し込み……ペパロニのスパイスが戦鼓を打ち鳴らす!」 ……こ、これは芸術的暴力! チーズの糸が、上品なわたくしを下品な食欲へと引きずり込んでいきますわ! 気づけば、次の一片、さらに次の一片。 「……あ、あら。そろそろ終わりにいたしますわ。これ以上は高カロリー、下品極まりませんもの」 余裕を装い、唇をぬぐう。 だが、周囲からくすくすと笑い声。 皿の上は、すでに更地。 美月は一瞬固まり、すぐに顔をそむける。 「……まぁ、庶民の料理にしては、悪くありませんでしたわ。特に、あの芸術的チーズの糸……評価に値します」 そして小さく、誰にも聞こえぬほどの声で。 「……次はマルゲリータを……いただいてもよろしくてよ」
