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【長編06】迫り来る殺人部隊
●SIDE:天ノ杓エリスロ 紅様の爆弾が船底で爆発し、船が大きく揺れたのを合図にライブを中断した私は、手筈通りにスタッフに扮したテロリン工作員たちと船底に向かった。紅様の爆弾はまず、水中に面した部分を爆破して浸水させるものと紅様が陸に向かうための小型艇を隠してある部屋のそばの壁を吹っ飛ばすものが作動する。その紅様が脱出に使った穴から、深海クンチームが乗り込むのと同時に私たちが入れ替わりで脱出する。 「エリスロ様、この先です」 「この辺りに船員はいないのを事前確認してはいますが、念のためご用心を」 工作員たちの声に頷いて返し、そっと目標地点を通路の角から覗き込む。穴の周りに船員の姿は無いけど、まだ深海クンも到着してない。もう少し、ここで待たないと。 「って、あれ?紅サマ?」 穴から急にずぶ濡れの紅様が入ってきた。これは計画にない動きのはず。何かイレギュラーが起きたのかな。 「紅サマ、どうして戻って来られたんです?それにすごく濡れてますが」 「港で遠隔爆破をしていたら刺客に襲われた。マーシャルアーツ使いのライダースーツの女だ。遠隔爆破装置をダメにされたんでな、甲板の乗客を手ずから殺害し、残りの爆弾も手動で作動させねばならなくなった」 濡れた髪をかき上げる紅様、セクシーでエロいなぁ・・・じゃなくて、それ紅様の負担が相当増えそう。 「何かお手伝いできる事はありませんか?」 「いや、いい。このくらいならプラン変更するほどじゃない。俺の小型艇は少し離れた所に着けて俺は泳いで来たから、お前たちが脱出に使うには不適当だ。予定通り深海の救助艇で脱出しろ。俺はもう行く」 そう言うと紅様は、素早く壁を開けてメンテナンス通路に入っていった。紅様の頭の中には、メンテナンス通路のマップも完璧に入っている。上層階のパニックに関係なく甲板に出られるだろう。 「よし、紅サマの指示通りに計画変更なしで行動しましょう。深海クンが来るまで近くの部屋に隠れますよ」 「了解」 近くの船室に身を潜め、私は深海クンが到着するのを待った。 ●SIDE:早渚凪 「あっ、向日葵ちゃん!」 「早渚さん!良かった、ご無事だったんですね!」 船内を移動していた私は、偶然向日葵ちゃんに出会う事が出来ました。でも瑞葵ちゃんも大樹さんも一緒にいないようです。 「向日葵ちゃん、瑞葵ちゃんと大樹さんは一緒じゃないの?」 「ライブ会場で歌を聴いてたら突然爆音と共に船が揺れて、パニックが起きて瑞葵と離れ離れになってしまったんです。父とは会えてません」 そうか、やっぱりメイン会場だけじゃなくて屋外ステージでもパニックになったんだ。せめて大樹さんが瑞葵ちゃんを見つけ出してくれてれば良いんだけど。 「早渚さんはどこに行こうとしてるんです?」 「それがね、船員さんが言うには救命胴衣が船底の倉庫にあるらしいんだ。それを取りに行かないと」 「通路とか船室には無いんですか?普通用意されてるはずじゃ」 「それが無いんだってさ、多分テロリンの工作員が捨てちゃったんだと思う」 「て、テロリン!?それって前に、町で爆弾騒ぎを起こした・・・私が昏睡状態になった事件の犯人ですよね?」 しまった、いきなりこれが事故じゃなくてテロって言ってしまった。被害者の向日葵ちゃんにはショックの強い話だったかもしれない。しかしもう言ってしまった以上、話を続けるしかない。 「うん、そうだよ。実はトイレに行った帰りに、テロリンの工作員と会ったんだ。そいつが言うには、救命ボートにも爆弾を仕掛けてあるそうだから、この船から逃げるなら救命胴衣を着て海に飛び込むのが一番安全だと思う」 「そういう事だったんですね。分かりました、一緒に行きます。この状況でバラバラになると、合流できる見込みが薄いので」 私は向日葵ちゃんを連れて、船底方面を目指すことにしました。しかしまあ、船がぐらぐら揺れてる上に元々大きくて広い船なので、移動にも時間がかかります。同じように船内を移動してる乗客や乗組員もそれなりにいるし、少しでも早く行きたいのに中々進めません。 「早渚さん、焦らずに行きましょう。避難訓練と同じですよ」 「!・・・すごいね、向日葵ちゃんは」 向日葵ちゃんの冷静さに助けられつつ、私たちは船底へ向かって行くのでした。 ●SIDE:深海救太郎 救助艇に乗った俺のチームが予定のポイントに着く。船の外壁、そのまだ海面上に出ている部分にドア一枚分程度の穴が開いていた。計画通りだ。 「行くぞ、道中の船員は可能な限り殺害、甲板付近では救助隊を装え」 「了解」 部下に声を掛け、穴のすぐ近くに接岸する。運転を担当する一人を残し、俺含めて六人が船内に突入した。 「エリスロ、いるか?手筈通り逃げろ」 「おっ、深海クン来ましたね?じゃあ私たちはこれで」 エリスロのチームが俺達と入れ違いに救助艇に乗っていく。さて、後は俺達の仕事だ。 「あっ、そうだ。深海クン、紅サマが船内に戻って来てますよ。起爆装置が駄目になったんで、甲板で殺しまくった後に残りの爆弾を手動爆破するって言ってました。泳いだ時に無線も死んだみたいなんで、連絡取れないっぽいです」 「そうか、分かった」 甲板方面は紅に任せておけば間違いない。俺達は予定通り、船員が詰めているであろう機関部から攻めていく事にした。予想通り、浸水トラブルに対処しようとしている作業員がいる。 「あっ、救助隊か!?ここはいい、まず上の人たちを」 こちらに気付いた者から射殺していく。こちらは訓練を受けた上に銃を持った六人だ。丸腰の作業員が太刀打ちできる訳も無かった。すぐに鎮圧は完了する。 「クリア。次に行きましょう」 「了解した」 部下と連携しつつ、乗組員を殺して回る。彼らのそれぞれの罪深さなど知らん。聖人君子もいるかも知れん。だが。 「深海さん、今日は間違った世界を作ったゴミ共を大勢掃除できますね」 「おい作戦中だぞ、無駄口叩くな。すみません深海さん、こいつ新入り気分抜けなくて」 「構わん。結果が出せるなら、無駄口叩こうが多少遊ぼうが別にいい。好きにしろ」 次々と船員の命が消えていく。たまたま船底付近に迷い込んだ乗客も同じ運命を辿った。大体、下層階の連中は始末し終えただろう。無線からは、俺の救助艇が救助した人数が数十人になったと報告が来ている。頃合いだな。 「よし、中層を目指すぞ。出会った船員や乗客は、逃がす恐れが無ければ始末だ。目撃者を逃がす可能性がある場合は救助隊として振る舞え」 「了解」 俺達は上を目指して移動を始めた。そしてそこでは、予想外の出会いが俺を待っていた。
