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【ツーサイドアップ】『わからせる』ということ

「こんにちは、深海さん♪」 江楠に用意してもらった新居で暮らす俺と向日葵さんの元に、瑞葵さんが訪ねて来た。 「こんにちは、瑞葵さん。向日葵さんに用事か?まぁ上がってくれ」 「はい、お邪魔します。でも今日は、おねーちゃんじゃなくて深海さんに会いに来たんです」 「俺に?」 一体何の用事だろう。俺と瑞葵さんの接点など、クィーン・シズムンドと向日葵さん絡みだけのはずだが。 「あれ、瑞葵?どうしたの急に」 「ちょっと深海さんと話しておきたいことがあって」 瑞葵さんの雰囲気はにこやかだが、多分俺にとってあまり気楽な話ではなさそうだ。予想通り、瑞葵さんは顔を引き締める。 「深海さん、病室でお父さんに言った事を覚えてますか?おねーちゃんを守り抜くって」 「ああ」 俺は頷く。その決意に一切の嘘はない。瑞葵さんはそんな俺を静かに見つめ、続きを話す。 「お父さんはとりあえず認めてくれたみたいですけど、私としてはちょっと心配なんです。失礼だとは思いますけど、深海さんの力を見せてもらいたくて」 「俺の力?」 瑞葵さんはリビングのテーブルの前に移動し、その上に片腕を出して肘をついた。いわゆるアームレスリングの姿勢だ。 「おねーちゃんを本当に守る力があるのか、私に示して下さい。腕相撲で勝負です♪」 「お、おいおい。本気か、瑞葵さん?」 そんな触れれば折れそうな細腕で、俺と腕相撲?下手すりゃ早渚に続いてその彼女まで骨折させちまいそうだぞ。と、俺は思っていたのだが。 「救太郎さん、腕の怪我が完治して無ければやめたほうがいいですよ。瑞葵に腕相撲で勝つのは救太郎さんでも多分無理です」 向日葵さんがそんな事を神妙な顔で言い出した。そんなに強いのか、瑞葵さんは?確かに、クィーン・シズムンドの非常口を開ける程度の腕力はあるみたいだが、女性の中じゃ力持ちってくらいだろう。 「腕の怪我はもう完全に治ってる。・・・それにどのみち、やらないと瑞葵さんは納得してくれそうにないな。大切な姉を弱い男に預けるわけにはいかないって思ってるんだろう。だったら、ここで逃げたらそれは向日葵さんを守らないと宣言してるようなもんだ。俺は勝負を受けるぞ。勝って瑞葵さんに俺の力を示して見せるさ」 俺はテーブルを挟んで瑞葵さんの向かいに立ち、瑞葵さんと同じように肘をついた。細い指先が俺の手に絡みつく。こうして握ると、本当に小さい手だ。腕の太さだって俺の方が二倍以上はある。瑞葵さんに勝ち目があるとは到底思えない。 「ハァ・・・怪我させないでね」 向日葵さんがそっと俺たちの手の上に手を重ね、そう呟いた。 「はじめ!」 そして向日葵さんの手が離れる。俺は言われた通り瑞葵さんに怪我をさせないよう、全力の三割程度の力を入れた。しかし。 「!?」 動かない。ぴくりとも、向こうに倒れない。まるで分厚いコンクリート壁を押したような錯覚。どうやら、予想以上に腕力自慢らしい。俺は今度は、全力の六割で押した。結果は・・・同じ。 「ふふ、深海さんは優しいですね」 瑞葵さんが全く変わらない調子で口を開いた。 「おねーちゃんを守れるってところは見せたいけれど、私に怪我させるのも嫌だから手加減してるんですよね」 「くっ・・・!?」 話してる間にも、俺はどんどん力を込めている。今や、全力の九割。いや、もう全力でやっている。だが無情にも、まるで瑞葵さんの手が動かないのだ。 「どうなってる・・・!」 汗が滲む。腕や肩の筋肉は膨張し、悲鳴を上げ始めてる。それなのに。 「深海さん、遠慮しないで?力、入れていいんですよ・・・?」 優しく微笑む瑞葵さん。俺の全身の汗は、その一瞬で冷や汗に変わった。既に全力を出しているのに、瑞葵さんはまるで動じていない。 「ぐっ、うおお・・・!」 緩急をつけてぐいぐいと攻める。だが俺の腕が軋むばかり。これはコンクリート壁なんてもんじゃない。建設重機のアームと戦っているような、圧倒的な力の差。今分かった、向日葵さんの「怪我させないでね」は瑞葵さんに言っていたんだ。 「ん~、困っちゃいますね。このまま深海さんと手を繋いでると、おねーちゃんが嫉妬しちゃうかも。・・・そろそろ、私も力入れますね?」 バカな。今まではまるで本気じゃ無かったとでも・・・?その言葉が嘘かどうかは、次の一瞬で分かった。 「う、うわ!」 俺の手がすごい力で押しやられていく。手の甲がどんどんテーブルに近づいて行く。 「深海さん、負けた後の事を考えてなかったみたいですね?」 「うぐぐ・・・」 ここで負けたら、瑞葵さんは俺に失望するだろう。向日葵さんも俺のことを頼りないと思うかも知れない。嫌だ。向日葵さんにだけはガッカリした顔をさせたくない。 「負けるかぁ~ッ!」 俺は全力を越えた渾身の力を振り絞る。腕の筋肉がブチブチと音を立てるのが分かり、古傷が開いた感覚もあった。だがそれでようやく、瑞葵さんの攻勢を止めるのが精一杯。状況は何も好転していない。力尽きた瞬間、俺は敗北するだろう。 「あああ!がああ!」 「・・・」 もう限界だ。腕に力がこれ以上入らない。その時だった。 「きゃっ」 可愛らしい悲鳴と共に、瑞葵さんの手の甲がテーブルに着いていた。俺が何が起こったか分からず呆然としていると、白魚のような指は俺の手からするりと抜けて行った。 「あーん、負けちゃいました~。男の人って力つよーい。救助隊だけあって、すっごくたくましいんですね。これならおねーちゃんを安心してお任せできます♪あ、でも・・・もしかしておねーちゃんには組み敷かれちゃってたりして♡」 「ちょ、何言ってんの瑞葵!」 向日葵さんが頬を染める。瑞葵さんは足早に逃げ出した。 「きゃー、おねーちゃんが怒ったー。深海さん、お邪魔しました。後はおねーちゃんと二人きりでしっぽり・・・じゃなくて、ゆっくり過ごして下さいね♪」 「コラァー!わざと言い間違えたでしょ!」 瑞葵さんを追いかけて向日葵さんがリビングを出て行く。俺は生まれたての小鹿のように震える自分の腕を見下ろし、敗北感に沈んだ。 「うおおおお・・・」 後日早渚に電話し、この時の話を聞かせると。 「あー、瑞葵ちゃん的にはそれで一応認めてくれたんじゃない?向日葵ちゃんのために負けられないって気持ちが伝わったんだと思うよ。あと多分、私の足をへし折った件も許してくれてそうだね。前に瑞葵ちゃんの成人式で私に暴力振るった男はさ、腕相撲で『ダァンッ!』って轟音が鳴るくらい豪快に地面に叩きつけられてたから」 「腕相撲でそんな事になるか!?どんな剛腕なんだ!ゴリラじゃあるまいし!」 「いやぁ・・・中身入りの自販機持ち上げれるからさ、瑞葵ちゃん」 人間辞めてるだろ、それは。 「お前、よくそんな子と付き合っていられるな」 「いやぁ、私にはそんな馬鹿力使わないから。いちゃいちゃしてる時にさ、私が調子に乗って瑞葵ちゃんの乳首吸い過ぎるとね、恥ずかしがって真っ赤になってぽかぽか私の頭を叩くんだよ。全然痛くないし、この時の瑞葵ちゃん本当に可愛くてつい毎回やっちゃうんだよね。でも」 俺はのろけ始めた早渚との通話を切った。やっぱり向日葵さんを守るには、トレーニングの負荷もっと上げないとダメだな。

コメント (14)

gepaltz13
2025年11月06日 07時40分

早渚 凪

2025年11月06日 14時28分

T.J.
2025年11月05日 08時38分

早渚 凪

2025年11月05日 12時57分

五月雨
2025年11月04日 13時23分

早渚 凪

2025年11月04日 15時58分

mooooooooo1230
2025年11月04日 11時19分

早渚 凪

2025年11月04日 15時57分

BBぼるてっくす
2025年11月04日 06時57分

早渚 凪

2025年11月04日 15時57分

white-azalea
2025年11月04日 05時10分

早渚 凪

2025年11月04日 15時57分

サントリナ
2025年11月04日 03時44分

早渚 凪

2025年11月04日 15時57分

白雀(White sparrow)
2025年11月04日 03時31分

早渚 凪

2025年11月04日 15時57分

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2024年7月よりAIイラスト生成を始めた初心者です。 基本はオリジナルキャラで、まれに二次創作作品を投稿します。オリジナルキャラに関しては、エロ系・グロ系含み完全コラボフリーですので気軽に連れて行ってください。 年齢区分は全年齢~R-15を中心に投稿します。R-18作品もたまに投稿しますが、現在はサイト内生成のみでイラスト生成を行っていますので、規約違反を含むR-18作品(性器描写等)は投稿できません。 ストーリー性重視派のため、キャプションが偏執的かと思いますがご容赦願います。

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