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【雨】夢の超(スーパー)ドミサイル
力なくだらりと腕を垂らして、私はただ空を見上げていた。頭の中ではいくつもの案が生まれては消えて行く。そんな私の背後から聞き慣れた男の声がした。 「こんなところにいたのか、バラバラヴァー。雨に打たれるとは、水に飢えていたのか?アルラウネの生態ならば、普通に経口摂取すれば良いものを」 「ドミサイル・・・」 雨。言われて気付いた、私の体はすっかり濡れている。いくら元植物の私でも、肌の感覚を得た今となっては水に濡れた服が貼り付く感触は決して心地よいものではない。 「ちょっと怪人のアイデアを考えていたのよ。雨が降り出した事には気付いていなかったわ」 「怪人のアイデア、か。確かに最近のマジカヨはかなり手強いからな」 以前はマジカヨフィジカルの対策はマストで、それ以外はさして考えなくてもいい勝負に持ち込めた。だが今は、ロジカルがこちらの手の内を解析するのが早くなり、リリカルの魔法は多様化しかなりの対応力を身に着けてきている。加えて以前はマジカヨを攻撃するケースも多かったマジカヨクリティカルがすっかりマジカヨの仲間面をしている。 「フィジカルとクリティカルへの対策を盛り込みつつ、ロジカルに手の内を把握されにくくリリカルの対応が間に合わないレベルで作戦を展開できなくちゃ、正直やっていけないのよ。せめてクリティカルさえいなければ、もう少し余裕があるんだけどね」 「奴はマジカヨがピンチになると現れるからな。以前マジカヨを攻撃していたのは、こちらがフィジカル対策を十分に出来ていなかった頃で、怪人がフィジカルの一撃で即退場を繰り返していた時だ。恐らくクリティカルの奴は、勝負を長引かせつつマジカヨを勝たせる事が目的なのだろう」 実に厄介な要素だ。純粋に戦闘力の高い怪人を生み出すには、元々生物として強い存在が不可欠である事を考えるといい加減コストを度外視してでも地球外生命体を連れてくる方が良いのかもしれない。 「いずれにしても、こんな大雨の中で思案に耽ることもあるまい。拠点へ戻るぞ」 「・・・そうねぇ。あんまり周りにアイデアの元も転がって無さそうだし」 私が最後に周囲を見回していると、不意にドミサイルが私を突き飛ばした。 「きゃっ!」 直後、凄まじい閃光と轟音。それが過ぎた後には、フラフラのドミサイルがそこに立っていた。 「ぶ・・・ぶじ、か、バラバラヴァー・・・」 「ドミサイル!?」 ようやく気付いた。今のは落雷だ。私に直撃するところをかばったのだ。 「馬鹿、アンタサイボーグなのよ!落雷の電圧なんて受けたらどうなるか分かんないわ!すぐ戻るわよ!」 私はドミサイルを抱えるようにして転移魔法で拠点へ戻った。ラボに連れて行くのが間に合うだろうか。 「ドミサイル、体に何か異常はないの!?」 「・・・ぐ、胸の奥が、熱い」 ドミサイルの胸には、サイボーグのコアがある。コアに損傷があった場合、大手術になるかも知れない。 「ぐ、うう・・・うおおおお!」 ドミサイルの全身から、バチバチと電流がスパークした。そして、髪が金色に変色していく。 「ど、ドミサイル・・・?」 「これは・・・何だ?力が・・・力が湧いてくるぞ!」 ドミサイルが差し伸べた手から、目にも留まらない強烈な魔力砲が放たれる。拠点の壁が爆砕され、大穴が開いた。 「バラバラヴァー、これはどうなっているんだ?不調どころか信じられんパワーアップだ!」 「・・・確証は無いけど、落雷によって機械部品が活性化したのかしら?それとも充電による一時的な強化?」 「いや、一時的なものではないかも知れんぞ。まだ出力を上げられそうだ・・・ハァッ!」 ドミサイルが魔力を込めると、金色の髪は逆立ち、スパークもより激しくなった。 「ふ、フハハハハ!こんなスーパーパワーが俺にあったとは!これならば、身体能力のみでマジカヨ4人を同時に相手しても勝てるぞ!」 「そう・・・そうね!詳しく検査する必要はあるけど、パワーアップは喜ばしいわ!ドミサイル、検査が終わり次第すぐにマジカヨを倒しに行ってちょうだい!」 「ああ、もちろんだ!待っていろ、マジカヨ達!そして我が花嫁よ!フハハハハ・・・!」 「・・・おい、バラバラヴァー。疲れているならベッドに行け」 「んあ?」 気付くと、私はラボの机の上に突っ伏していた。傍らにはドミサイルが立っていて、私を呆れたように見下ろしている。 「怪人研究がスランプなのだろう。碌なアイデアが出ない時に、無理して考えても上手く行かん。少し休むがいい」 「・・・夢?」 目の前のドミサイルは、どうみてもいつも通りだった。 「ドミサイル、アンタ金髪になってパワーアップしたりは・・・」 「何の話だ?」 やはり夢・・・いや、落雷を再現すればもしかしたら。 「ドミサイル、ちょっといいかしら。アンタ、今から1億ボルトの通電実験の被検体になりなさい」 「・・・やはり疲れているようだな。馬鹿も休み休み言え。俺はサイボーグだぞ、そんな電圧がかかったらコアがイカレるに決まってるだろうが」 「いやいや、そうならずにパワーアップするのよ!夢で見たんだから!」 「尚更信用ならん!俺は出撃する、貴様はさっさと寝ろ!」 ドミサイルは引きつった顔をしながら転移魔法で逃げた。私は舌打ちをして、ラボの奥にあるベッドに向かった。 「帰ってきたら1億ボルト流してやるわ」 ・・・ちなみにその後、帰ってきたドミサイルを捕まえて電流を流したところ見事にドミサイルは大ダメージを負い、私は丸三日不眠不休でドミサイルを修理する羽目になった。やはり夢は鵜呑みにしてはいけない。ただ、変身してパワーアップする怪人というのは悪くないかも。
