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秘密の日傘
強い日差しの中 「先生、今日の日傘、それは……UVカット加工なしですね」 「紫外線、通過率高そうです。お肌、大切にしてください」 紫峰怜花は咄嗟に差していた花柄の日傘を見上げる。生成りの布にレースがあしらわれた、おしゃれな一点。 だが、隣に並ぶ狭霧華蓮の黒い折りたたみ傘には、堂々と「99.9% UV CUT」の文字。 「……おしゃれより、実用重視って感じね、華蓮さんは」 「いえ、私は“機能美”の信奉者です」 「機能美?」 「見た目が美しいものは、構造も理にかなっているべきだと思うのです。日傘なら、遮光率と通気性。服なら動きやすさとシルエットの均衡」 「なるほど、でもたまには可愛いのを選びたくなったりはしない?」 「あります。ですが、私は制服に合わせてこの黒傘を選びました」 「……コーディネートにまで計算が入ってるのね……!」 華蓮はふっと微笑んで、自分の傘を先生の傘の上に重ねてみせた。 「このように、重ねるだけでも多少の効果はあります。美と安全のミックス傘」 「……え? ……華蓮さん……?」 思わず名前で呼んでしまって、怜花は一瞬、言葉を失った。 二人の肩先が、ほんのわずかに触れる。 傘の下の空間が、まるで小さな【秘密基地】みたいに感じられるのは、気のせいだろうか。 二人の頭上に、可愛さと機能性が融合した“即席ハイブリッド傘”が咲いた。 日差しは相変わらず強いけれど、守られている気がする。 「なんだか、ちゃんと守られてる気がするわ。見た目も気分も、ね」 二人の傘が重なって生まれた小さな日陰は、思ったよりも心地よかった。 「……たまには、機能美もいいわね」 「たまには、可愛いも悪くありませんよ」 交差した傘の縁が風に揺れた。 ファッションと科学。そのちょうど真ん中で、 紫峰怜花はは“ふたり分の影”に、どこか安心感を覚えていた。 小さな日傘の下で。
