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秘密の渚
「先生っ、こっちです!」 太陽が容赦なく照りつける浜辺で、狭霧華蓮が大きく手を振っていた。 その声に、新米教師・紫峰怜花は思わずまばたきした。 「華蓮さん……!?」 そこにいたのは、普段の落ち着いた彼女とはまるで別人のように、まぶしいビキニ姿で笑っている狭霧華蓮だった。 「どうしました?先生? 熱中症ですか?」 「いや、あの、その……」 「先生」 「……なに?」 「顔、赤いです」 「日焼けよ、たぶん!」 「太陽に照らされると、テンション上がりませんか? 私は今、光合成中です」 「植物……なの?」 「はい、今日はビキニで夏の光を吸収する日です!」 そう言って、華蓮はくるっと一回転してみせる。 揺れる胸、跳ねる髪、きらきらとした目。 怜花はふいに目をそらした。「なんだか、すごく……目に眩しいわね」 「紫外線の量が最大になるのは、この時間帯ですから」 (……違う意味で言ったのだけど……) 波打ち際まで走っていった華蓮が、手を広げて叫ぶ。 「先生も来ましょう! 今日は科学も理屈も抜きです!」 「あなたがそれ言うなんて、珍しいわね……」 靴を脱ぎ、怜花もゆっくりと足を水に浸す。 その冷たさに、ふたりで声をあげて笑った。 「先生、夏って、ちょっとくらいはしゃいでもいいですよね?」 「……うん、今日は特別。思い出って、紫外線よりも焼きつくから」 「じゃあ、焼きつけてください。今日の私を、しっかりと」 きらきら光る波の上。 その日、紫峰怜花の記憶には、いつもよりずっと眩しい狭霧華蓮の笑顔が焼きついた。 ふたりだけの渚の秘密は、静かに、夏の青に溶けていった。
