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【腕まくり】サイバ君のフィットネス無料体験
もっと男らしさを身に付けるために、僕は今日学校帰りにフィットネスジムに来ています。ポストに無料体験のチラシが入ってたので、ちょっとやってみようかと来たのですが・・・人がいないなぁ。 「す、すみませーん。どなたかいらっしゃいませんかー?」 僕が呼びかけると、奥の方から綺麗なお姉さんがやって来た。ジャージ姿でバインダーを持ってるから、職員の人かな。 「あら、可愛らしいお客様ですわね。ようこそ、フィットネスジム『ダイヤモンドファイアフライ』へ。オーナーの金剛院蛍(ほたる)ですわ」 いきなりオーナーさんが出て来たのにも驚いたけど、僕にはどっちかというと名字の方が衝撃だった。 「えっ、金剛院さんですか!?それってあの、有名な金剛院グループの?」 「はい、金剛院グループ総帥の金剛院晶はわたくしのいとこですわ。わたくしは分家筋なので、そこまでお金持ちという訳ではありませんけれど」 いやでも、見た感じまだ二十歳くらいに見えるのにフィットネスジムのオーナーだなんて、やっぱりそれなりのお嬢様だと思うけどな。 「お客様、お名前とご用件をお伺いしてもよろしいかしら?」 「あっ、は、はい。僕、チラシを見て無料体験をしてみたくて来ました、羽佐美です」 「羽佐美さん、ね。無料体験・・・まぁ、よろしいかしら」 蛍さんは少し考えるような素振りをしたけど、すぐに笑顔で僕を奥に案内してくれた。 「更衣室とシャワー室はこのドアの向こうですわ。ですが、本日は既に運動着に着替えていらしたのね。こういったジムは初めてですか?」 「は、はい。だからどういうトレーニングとかが出来るかとかも良く知らなくて」 「ふふ、それでは今日は色々と少しずつ試してみましょうか。何が得意で何が苦手なのか、効率よく鍛えられそうな部位はどこかなど、見て差し上げますわ」 「えっ、でも僕にくっついていたら、蛍さんの本来のお仕事ができなくなってしまいませんか?」 「大丈夫ですわ、これだってお仕事の一環のようなものですから」 そうして、僕はトレッドミルやベンチプレスのような器具系トレーニングや、スクワットやヨガなどの運動などを、軽めに色々とやってみた。蛍さんは僕の様子を見ながら楽しそうに記録を取ってくれたり、姿勢のアドバイスをくれたりとサポートしてくれた。 「羽佐美さんは体が柔らかいのね。そしてしなやかで疲れにくい筋肉をお持ちのようですわ。今はまだ中学生ですから、あまり重い負荷を避けて鍛えればとても良質な筋肉を手に入れる事が見込めますわね」 「は、はい・・・!」 僕が器具を使う前には蛍さんがお手本を見せてくれるけど、明らかに僕より力が強い。僕が顔を真っ赤にしてようやく上げられる重量を、顔色一つ変えないで持ち上げてしまう。 「蛍さんって、子供の頃から鍛えていたりするんですか?」 「ええ。物心ついた頃から、割とストイックに鍛えてきたと思いますわ。今は19歳ですから・・・かれこれ16年くらい、トレーナーの指導を受けながら身体を鍛えて来たことになりますわね」 トレーナーさんがそんな小さい頃からついているなんて、やっぱりお嬢様なんだなぁ。スポーツに力を入れてる家族だったのかも。 そんな風に夕方になるまで二人きりでトレーニングを続けて、いい汗をかいた僕は事務所で休ませてもらっていた。 「羽佐美さん、今日はいかがでしたか?正式にご入会いただければ、ちゃんとしたメニューやスケジュールを組んで、目標を目指してのプランをお作りできますけれど」 「あっ・・・す、すみません。実は僕の家、お金があんまりなくて・・・父が死んでしまったので、母が女手一つで僕を育ててくれているんです」 「まぁ・・・それは苦労されているのね」 「だからその、無料体験だから来てみたって感じでして・・・入会は、ダメって言われるかも」 「お気になさらないで。実際、無料体験だけ来るお客様も多いのですわ。それに、羽佐美さん本人がご入会されなくても、お友達に宣伝していただける可能性もあるでしょう?」 蛍さんは嫌な顔一つしなかった。すごいなぁ、僕より5つしか年上じゃないのに、こんなに大人な対応をしてくれるなんて。 「でも、羽佐美さんが無料体験をしてみようと思ったのは、何か体を鍛えたい目的があったのではないかしら?よろしければ、聞かせていただけます?」 「あ、はい。僕、よく女の子っぽいとか可愛いとか言われちゃうので・・・もっと男らしくなりたくって」 僕がそう言うと、蛍さんは目をぱちくりさせていた。変な事言っちゃったかな。 「あ、あら?あらら?羽佐美さんって・・・男の子でしたの?」 「き、気付いてなかったんですか・・・!?やっぱり僕、男らしくないんだ・・・」 「あ、ああいえ・・・そうではなく、ここは女性限定のフィットネスジムですから、てっきり女の子だとばかり」 「ええーっ!?じょ、女性限定ですか!?す、すみません知らなかったんです!」 慌ててチラシをよく読むと、ちゃんと女性限定のフィットネスジムって書いてあった。顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。 「あれ?では羽佐美さんというお名前も、もしかして下の名前じゃなくて名字でした?」 「はい・・・羽佐美サイバ、です」 蛍さんはちょっと眉間にしわを寄せた。僕がちゃんと自己紹介してれば・・・。 「よし、ではこうしましょう」 蛍さんはぱっと笑顔に戻って、僕に一つの提案をした。 「羽佐美さんさえ宜しければ、今日と同じ・・・毎週月曜日でしたら、わたくしに連絡を入れてここに来ても良いということにします。実は今日は休業日でして、わたくしは自主トレのためにここに来ていましたの」 「休業日!?ほ、本当にすみません、何から何までご迷惑を!」 「迷惑だと思っていたなら、最初の時点で『今日は休業日ですからお引き取りを』と申しておりますわ。わたくしが好きでやった事です。それに、これならお金の心配もいりませんわ。だって、わたくしがお休みの日にお友達を誘ってトレーニングしているだけですもの」 「蛍さん・・・」 僕なんかのために、こんなに良くしてくれるなんて。こんなの、断ったらすごく失礼だと思う。僕は蛍さんと連絡先を交換して、月曜日にはここで体を鍛えるよう予定を組んだ。 「次からは、お着替えも持ってくればシャワーを浴びて帰れますわよ。本当は今日も浴びさせてあげたいところですが・・・あいにく、着替え用の下着は女性用しかありませんの。結局汗まみれの下着を着直す事になっては意味がありませんものね」 「だ、大丈夫です。次からはちゃんと持ってきます。蛍さん、今日はありがとうございました!」 僕は丁寧に頭を下げて、フィットネスジムを後にした。これから毎週月曜日が楽しみだなぁ。 羽佐美さんを見送ったわたくしは、ロッカールームに入るとぎゅっと自分の腕を握った。 「あんな可愛い子が男の子ですって・・・!?奇跡、奇跡ですわ!これはもしかして神様がわたくしにご褒美をくれたのかしら」 思わず抱きしめてしまいたくなるほど細い身体、小さな肩。男子にあるまじき柔らかな髪や頬。きっと唇もさぞ柔らかい事でしょう。 「これから毎週月曜日は二人きりでトレーニング・・・楽しみ過ぎますわぁ。羽佐美さん・・・いえ、サイバ君♡」
