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【みたらし団子】見たら死団子
とある峠にぽつんと存在する小さな茶屋。店の前には店より大きいみたらし団子のモニュメントが置かれていて、一度見たら記憶に残るだろう。 提供される風味豊かなほうじ茶と、程よい塩気と甘さを併せ持つみたらし団子は、山歩きをしてきた人々を癒すのにぴったりな味わい。 リピーターも多く、『大きな団子の茶屋』と言えばここの事だとみんなが分かる人気店。 だが、実はこのモニュメントは作り物ではなく、生きた人食いの妖怪である。普段は団子に擬態しているが、日が陰ったり夜の帳が降りたりすると本性を現すのだ。 それぞれの団子に牙の生えた大口と長い舌を併せ持ち、人間を舌で捕らえて口に放り込み咀嚼する。時には下の団子から生えた舌で人間を上に放り上げ、上の団子が舌で絡め捕る連携プレイも見せる。 太陽が苦手らしく、日差しが強くなると擬態状態に戻るが山の天気は変わりやすい。よって、晴れているから安全とは言い難いのだ。 こんな危険な妖怪がいるのに、なぜここが人気店のままなのか。それは、この妖怪の妖術が峠全体に及んでいるからである。 この妖怪を目撃し、辛くも逃げ延びた人間は当然ながら妖怪から距離をとろうとする。だが舌が届かない距離にまで離れると、この妖怪の妖術が効き目を発揮する。 妖術によって途端にこの妖怪の事を認識できなくなり、この妖怪を見た事も忘れるのだ。そして普通に峠を下り始める。麓につく頃には、おいしかったお茶と団子の記憶くらいしかこの茶屋の思い出は無い。 大きな団子のモニュメントの印象も相まって、また行こうかなとすら思ってしまう。 ちなみに茶屋の店員はとっくの昔に妖術によって洗脳されており、妖怪を見てもそれが異常だと認識できずにいる。本来この茶屋を建てた際に、一緒に建てた覚えのないモニュメントを疑問に思う事すらないのだ。 もちろん、妖怪の写真を撮ろうとする者もいるだろう。だが折角撮影した写真すら、フェイクだと切り捨てられて終わりだ。 何せ証拠写真があろうが撮影した本人が下山後には覚えていないのだから、説得力のある話ができようはずもない。「なぜ撮影した団子モニュメントにこんな写真加工をしたのか?覚えてないな」となるだけだ。 無論の事、食われた犠牲者は帰ってこないが、そこは山での事。山で遭難して行方不明になったと結論付けられるにとどまってしまう。行方不明者を茶屋と関連付けて考える者などいない。 そうして今日もこの茶屋には、団子を食べに来て団子に食べられる人間が後を絶たないというわけだ。 まさしく、『見たら死団子』である。 【1枚目】 催眠妖術の使い手にして、人を食う団子の妖怪。奴にとって今はディナーの時間というわけだ。 【2枚目】 普段の擬態状態の様子。妖怪の事を知らない、又は忘れた人間にとって、茶屋の風景はこれである。 【3枚目】 ふと空が曇り、妖怪が擬態を解除した瞬間。牙を剥き、長い舌が踊り、唾液が滴る。人々は恐れ逃げ惑うだろう。
