【毛糸玉】『帰れるヤーン』とツラタンカーメン王墓

ここはツラタンカーメン王墓。最近はアンデッド系の魔物が王墓周辺でも多く見かけられるようになったダンジョンだ。原因は分からないが、何かのきっかけで王墓の呪いの力がパワーアップしたらしいぜ。本来は歴史的建造物だからあまり内部で戦闘しないでくれと言われてる場所だが、最近の魔物増加で戦闘行為の規制が若干緩和された。おかげで多少気楽に入れるようになったんだ。 そこで俺『トーシロー・マイシン』は、相棒の『フォーミュラ・王（ワン）』通称ワンコと一緒に探索にやってきた。ワンチャン王墓のお宝も手に入るかも知れねぇしな。 「よし、探索始めるぜ！てことでコイツの出番だ！」 「わぅ～？マスター、それなぁに？」 俺が取り出したのは、一見何の変哲もない毛糸玉。しかしこれは重要な魔道具なんだ。 「これはな、かの発明王エ・アプデが生み出した魔道具『帰れるヤーン』だ！コイツの端を入り口に結んで、毛糸玉を解きながら進むとどこまでも無限に解けていき、帰りたくなったら糸に触れて『入り口に戻りたい』と念じれば入り口に転移できるんだぜ！」 「わぅ～？つまり・・・迷路で迷っても簡単に帰ってこれるって事？」 「そうだ！これがあれば、厄介なダンジョンも安心って事だぜ！」 俺は早速毛糸玉の端っこを入り口に結んだ。さぁ、探検開始だ！ 「敵はアンデッド系が多い。多分ダンジョンの性質からしてミイラやスケルトンが多数だ。俺が前衛で食い止めるから、ワンコは炎呪文でメインアタッカーをしてくれ！」 「マスターごと焼き払っていいの？」 「いいわけねーだろ！」 俺は剣士で、ワンコはこう見えて魔法使い。このご時世普通は4～5人パーティで、俺達みたいな2人パーティは珍しいんだが、そこには理由がある。宿屋に泊まる時は一部屋で部屋を取るから、俺とワンコで水入らず二人っきりで一晩過ごせるからだ！・・・問題は、このワンコが昼は元気で夜は眠いという健康優良児体質な上に、寝てる時に近づくと寝ぼけたまま噛みついてくる悪癖があるというところだ。おかげで一度も抱けたためしがない。女と合法的に同じ部屋に泊まれるから冒険者になったのに・・・。 「マスター、マスター。乾いたお肉の臭いが近づいて来るよ」 そこそこ奥まで進んだ頃、ワンコがそう報告して来た。 「ミイラか。数は分かるか？」 「え～と・・・1体！」 「よし、俺が倒す！魔力は大勢出たときのために温存しとけ！」 「わぅっ！りょーかい！」 冒険者としてのワンコは有能で、こうして臭いで敵の接近を感知したり、こっちの指示を素直に聞いてくれる。これでもうちょっと俺の事を意識してくれたらなぁ・・・マジで体つき以外色気ねぇんだよコイツ。 「必殺・セイバイセイバー！」 現れたミイラを大上段からの振り下ろしで一刀両断する。この程度の魔物ならすぐ倒せるけど、流石にドラゴンとかは無理だ。俺の憧れである“狩竜者”キレーヌさんの背中は遠いぜ。 「おおー、マスターかっこいい！」 「へっ、ちょろいもんだぜ」 と、急に俺達の前後に新手のミイラが降ってきた。待ち伏せの罠か！ 「ヤベェ、挟まれた！ワンコ、魔法行けるか！？」 「任せてマスター！」 ワンコが閃熱呪文を唱え、後方の敵を焼き尽くす。俺は前方のミイラを滅多切りにして活路を開いた。 「よーし、何とかなったな！」 「わぅ～！」 ワンコとグータッチを交わす。・・・と、ここまでは良かったのだが、何やら俺の左手が熱い。 「？」 見ると、『帰れるヤーン』が炎に包まれていた。 「熱っちぃ！？」 俺が毛糸玉を取り落とすと、それは瞬く間に燃え尽きた。 「何で急に燃えて・・・あっ」 「わぅ？」 来た道の方をよく見ると、ワンコの魔法が直撃した辺りから俺の手元まで、黒焦げになった毛糸が続いていた。それもすぐに王墓内に吹いた風に散って消える。 「毛糸が～！？うそーん!!」 「マスター、毛糸は『ヤーン』だよ？」 「うっせえ！分かってるわ！てかワンコ、お前よくも『帰れるヤーン』燃やしてくれたな！帰り道がもう分かんねえじゃねぇか！」 「わぅ～！？ごめんなさ～い！」 結局この後、アンデッド魔物にちょいちょい追われながらもワンコの鼻を頼りに脱出に成功した俺達だったが、儲けは「骨」や「包帯」といったアンデッド魔物の素材くらいだった。次回はもっと成果をあげて見せるぜ！