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閃光のミラージュ【湯上がりのチョコミント】
湯気の余韻がまだ肌に残る夜。 劉妃はバスタオルを軽く巻いたまま、ソファに腰を下ろした。 窓の外には満月が浮かび、街の灯りが静かに瞬いている。 冷蔵庫から取り出した一本のアイス。 淡いミントグリーンに、細かなチョコの粒。 それは彼女が昔から好きだった、変わらない味。 ひと口かじると、冷たさが舌に広がり、火照った身体をゆっくりと鎮めていく。 甘さの奥にある爽やかさが、思考まで澄ませてくれるようだった。 水滴が髪先から落ち、肩を伝う。その感触さえ、今は心地いい。 任務も、駆け引きも、今夜は少し遠い。 この静かな時間だけは、エージェントではない“ただの劉妃”でいられるから。 月を見上げ、もう一口。 チョコミントの冷たさと、夜の静寂が溶け合っていく。 やがてアイスが小さくなる頃、彼女はまた次の夜へ向かう準備を始めるだろう。 それでも今は―― 湯上がりの素顔のまま、甘くて冷たいひとときを、静かに味わっていた。
