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閃光のミラージュ【蒼き刃は、静かに目を醒ます………】
湯気が静かに立ちこめる室内。 シャワーを浴び終えた劉妃の白い肌には水滴が伝い、 室内灯の柔らかな光を反射して、まるで宝石のように輝いていた。 鏡越しに自分の視線とぶつかった瞬間、 劉妃は表情を引き締める。 “任務モード”へと心が切り替わる合図だった。 タオルを手早く体に巻き、濡れた髪を指先でとかしながら、 ゆっくりと、しかし迷いのない仕草でポニーテールへ束ねていく。 ――今日も戦う。 それが彼女の選んだ道。 髪を結び終わると、ベッドの上に丁寧に畳んであった 青いチャイナドレスの戦闘服へと手を伸ばした。 光沢を帯びた深い青は、 彼女が“闇の中での象徴”として呼ばれる所以だ。 身体にぴたりと沿うように設計されたドレスを纏うと、 先ほどまでの柔らかい空気は一変し、 そこに立つのは冷静で美しく、そして恐ろしく強い―― 女エージェント・劉妃そのものだった。 ホルスターにナイフを収め、 脚部に仕込んだワイヤーの状態を確かめる。 何ひとつ無駄のない動作。 彼女の呼吸すら、狙撃の精度を左右する武器だ。 最後に、赤いルージュをひと引き。 鏡の中に映る彼女は、静かに微笑んだ。 「……行くわ。」 その瞬間、 劉妃を包む空気は完全に“戦場のそれ”へと変わる。 部屋を出る前、 彼女は一瞬だけ振り返り、 シャワーの香りがまだ残る静かな空間を見つめた。 いつの日か、この手を血で汚さずにいられる日が来るのだろうか。 そんな淡い願いを喉の奥で飲み込み、 劉妃は音もなく闇へと溶けていった。 ――今日もまた、彼女の戦いが始まる。
