学生のレポート「ソリサソリ」

砂漠地帯に生息する魔物「ソリサソリ」。一見無機物・人工物に見えるかも知れないが、こいつはれっきとした魔物である。 背中に「座席」のような甲殻があり、ちょうど人間が座れそうな大きさと形をしているため「ソリサソリ」と名付けられた。 性質は温厚であり、襲われたら反撃はするものの、自分から積極的に人間を襲う事は決してない。かつては警戒した人間によって討伐されていた事もあったが、今ではそれもなくなった。 生態としては日夜問わず砂漠を滑走して餌を探し続けている。餌になるのは主に砂漠に生息する小動物で、狩りの方法はサソリと変わりない。 ではなぜ必要の無さそうな「座席」型の甲殻を持つのか？それはこいつが餌を確保するための手段だからである。 この「ソリサソリ」は極めて知能が高いようであり、人間を「餌を確保するための手段のひとつ」として利用する事を思いついたのだ。 とはいえ、座った人間を襲うという事ではない。そんな事をしていたら、危険生物とされて駆除されるのが分かっていたのだろう。こいつがするのは「取引」だ。 砂漠で素早く移動したい人間や、砂漠で迷子になった人間を見つけると、こいつは近寄って来る。そして、人間が餌を差し出せば代価として背中に乗せてくれるのだ。 餌は動物性のものであれば何でもよく、元々小食なこともあって人間がメインディッシュに食べる分程度の量があれば相当長時間乗せてくれる。 手綱を使ってコントロールすれば、方向転換や一時停止もしてくれる。ソール状の甲殻で体を支えつつ多脚を使って推進するため、乗り心地も揺れが少なく快適だ。 極めつけに、こいつは視覚以外の特別な感覚器を持っているらしく、砂嵐の中でも迷わないしアリジゴクタイプの魔物が潜んでいても正確に感知して回避しつつ進む。 砂漠の旅の心強い味方であり、旅人からはありがたがられる存在。そんな不思議な魔物なのだ。 ただし、こいつに乗る際には一つだけ注意がある。それは「決して背中の上でイライラしない事」だ。 長蛇の列に並んだ人間を想像すると分かりやすいだろうが、イライラした人間は貧乏ゆすりをしたり、手や足でテーブル面や床など周囲のものを軽くタップしてしまう。 こいつにとっては、「イライラした人間が自分の上に乗っている」は「気が立って攻撃的になっている生物が心臓の上に座っている」と同じ事。 ゆえに気が立った人間が上にいる事を察知すると、すぐに神経毒がたっぷり詰まった毒針で人間の頸椎を突き刺す。外敵を排除するための防衛反応だ。 刺されると人間はたちどころに体が痺れ動けなくなり、砂漠に転がったところをソリサソリに捕食される事になる。感覚が残ったまま、少しずつハサミで分解されて食われるのだ。 この残酷な死に方をしたくなければ、ソリサソリの上では決してイライラしてはいけない。「穏やかな態度」で接し、「余裕を持った精神状態」を保ち、「急な操作」をしない。これだけで事故率は激減する。 ちなみにだが、亜種として寒冷地域に生息する「ツンドラソリサソリ」も存在する。 こちらは砂漠種と違い、人間を見つけると警戒心を剥き出しに威嚇してくる。だが、威嚇するだけで自分からの攻撃はしてこない。あくまで攻撃は「正当防衛」だけだ。 威嚇しているところに対して砂漠種相手と同じように餌を差し出せば、最終的には餌を食べてくれるし背中に乗せてくれる。 恐らくだが、「威嚇しても怒らない包容力のある温厚な人間」を選別するためにそういう態度に出るのだと思われる。生意気だが可愛い行動である。 大人の余裕でもってして、ツンツンした態度を丸ごと受け入れてあげよう。上に乗る事を許可してくれたら、後は望むままにリードしてやればいい。何だかんだで応えてくれるはずだ。 わざわざ敵に回すような事をしなければ、ソリサソリは有益な魔物である。お互いに気持ち良く利用し合える関係を築きたいものだ。 【1枚目】 砂漠種のソリサソリ。だいたい単体だが、たまに群れで滑走している時もある。 【2枚目】 愚かにもソリサソリの上で粗相をした若者。毒針で一突きされ、この後捕食された。 【3枚目】 寒冷地域のツンドラソリサソリ。アイスブルーの体色が美しい。 【4枚目】 好事家が描いた「ツンドラソリサソリの擬人化」。裏面にはセリフと思われる文章が書き殴られていた。 「ハァ！？アタシに乗りたいって・・・バッカじゃないの！誰がアンタなんか乗せてやるもんですか！」 「な、何よ。美味しい肉で釣ろうったって、そうは行かないんだから・・・！」 「・・・う～、もう、分かったわよ！乗ってもいいけど、乱暴にしたら承知しないんだから！・・・優しく、しなさいよね」 この作品、一部の層に滅茶苦茶受けが良かったらしい。ちょっと分かる気がする。