【除夜の鐘】ミリシラ様の異世界百景その31「ジョヤの鐘」

地球の皆の者、こんクエスト～！全知全能の大賢者、「ミリシラ・シッタカブール」じゃぞ。 ワシらのところでも年の瀬を迎えておるが、ヒマリから地球の日本という国の風習をちょろっと聞いたんじゃ。何でも、大鐘楼を108回撞いて煩悩を打ち払うそうじゃのう。 そこでワシらも、大聖堂の鐘を108回鳴らす試みを今年からやってみる事にしたんじゃ。王都の新名物みたいになるかのう。ちなみにこの鐘、特に今まで名前は無かったんじゃがこの風習に則って「ジョヤの鐘」と名付けられたわい。 『ガラーン！』 おっ、始まったわい。夜空にうるさく響いておるのう。一応住民の許可はとってあるが、後日政府に苦情が入るかも知れんわい。 「♪（ぴょんぴょん）」 おお、ヴァニラではないか。この音が気に入ったんか？まぁ本来は滅多な事では鳴らさんからな、この大聖堂の鐘。王族の結婚みたいな国を挙げての祝い事とかじゃないと動かさんかったからな。 「そうだよねー、ボクも聞いた事ないもん。こんな音だったんだ」 キレーヌはまだ若いからのぅ。お主の祖父オーレルは聞いた事があるが、それもオーレルが若い頃じゃったからな。どうじゃ、煩悩が薄れる感覚はあるか？ 「う～ん・・・よくわかんない」 「♪（ぴょんぴょん）」 「ミリシラ先生、そんな格好で街を歩ける二人に聞くのが間違ってます。むしろその二人は煩悩を高める側の存在ですよ」 まぁそれはそうか・・・ヒマリの言う通り、二人ともかなり扇情的な格好しとるからのぅ。 「ミリシラ様、煩悩とは何も性欲ばかりと結びつくものではありませんよ。ヒマリさん曰く、必要以上に何かを欲しがる『欲』や人を憎んだり妬んだりする『怒り』、それに真理を悟ろうともしない『無知の心』も煩悩だとか」 「さすがはラファエル様、異世界の宗教に対してもご理解が優れておりますね」 ラファエルとサイトか。大聖堂の鐘を鳴らすのに、お主らもよう極力してくれたわい。礼を言うぞ。 「ハハハ、俺としても懐かしいですよ。日本で生きていたのが遠い昔の事のようです」 「ま、日本の鐘撞きと大聖堂の鐘を鳴らすのじゃ音とかはかなり違いますけどね。クリスマスと違って、あまり楽しいタイプの行事じゃないから根付かないかなぁ」 「ふふ、そこを根付かせていくのが私達教会の聖職者の仕事です。王都の民がこの一年の節目に心持ちを新たにするいい機会になるよう、来年からも頑張らないと」 まぁ、ラファエル主導の上に日本の文化をよく知るヒマリとサイトがおればあまりトンチキな風習にはならんじゃろ。さて・・・あやつは来ておるかな。一応声をかけてみたが。 「ちゃんと来ちょるぞ。ミリシラ、おめえ招いたんならちゃんと案内せんかい」 ふん、壮健そうじゃなローガン。まだニュアジュー高原からこっちに歩いて来る脚力があったか。 「家族と一緒に馬車で来たに決まっちょるがな。俺一人で歩いてきて間に合うわけねえ」 だから王都に引っ越せば便利じゃと言うのに。金がないなら多少援助してやるぞ？ 「おめえの世話にゃなりたくねえ。いつまた馬鹿の片棒担がされるか分かったもんじゃねえ」 失礼な奴め！もうよい、お主なんぞ知らん！あっちにオーレルの孫娘のキレーヌがおるわい、ちょっと話して来たらどうじゃ。 「へいへい。あの娘っ子だな、すぐ分かるぞ。目元がオーレルにそっくりときちょる」 キレーヌの乳がでかいからって変な気を起こすでないぞ、この鐘の音は煩悩退散の儀式なんじゃからな！・・・行ったか。しかしまぁ、結構な人数が集まってきたのう。滅多に鳴らない大鐘楼が動いておれば、気になる奴もそりゃ多いか。流石にエターナルアイドルたちのライブとまではいかんがな。 「わぅ～？マスター、あれ何で鳴ってるの？」 「馬鹿、ワンコなぁ、お前も冒険者ギルドで聞いただろ。あの三大賢者のミリシラが年越しの儀式としてやってるんだよ。なんか煩悩っていうのを払う意味があるらしいぜ」 「ぼんのーってなに？」 「えっ・・・と、何だっけな、確か物欲とか性欲とかそういうのじゃなかったっけ」 「わぅ～、じゃあマスターだめだめだね！さっきからずっとエッチなこと考えてるニオイがしてるもん！」 「う、うっせぇ！しょうがねーだろお前が隣にいるんだから！この後宿屋で同じ部屋で寝るんだぞ、ムラムラするわ！」 カーッ！煩悩まみれのリア充め、メラゾーマ五発同時に叩き込んでやろうかのぅ。・・・ワシだってその気になれば彼氏くらい・・・彼氏くらい・・・くっ！ 「ミリシラ先生には来年も彼氏できなさそうですね」 やかましいわ！ 「しかしまぁ、意外とこの大鐘楼の鐘の音って遠くまで届いてそうですね。王都の外まで聞こえてるんでしょうか？」 王都がいかに広いとはいえ、流石に鐘の音の範囲の方が勝るわい。どこまで聞こえておるかは分からんがな・・・。 「今度ラファエル様と俺が査察として訪問予定の町があるのですよ。狼の獣人族のシスターがいて、とても教会がにぎわっているとかで。彼女にも届いているでしょうか？」 狼の獣人は耳も鼻も良いが、流石に山を越えた先までは鐘の音も届いておらんじゃろな。音の範囲を拡大する魔道具か何かがあれば別じゃが。 「魔道具・・・そういえばミリシラ先生、シャベリーさんは王宮にいるそうですけど、もう一人の『閃脳』ってどこにいるんでしょうね？」 知らん。あやつとは昔何かあった気もするが、記憶があいまいにされておるからな・・・今でもどっかのアジトで研究開発しとる気がするわい。 「ミリシラ様が山向こうの町でお友達になった獣人族の子もいましたね。ティアさんと言いましたか」 あー、あやつか。どうじゃろ・・・オリゾン山麓に住んどるらしいが、そこなら聞こえておるかも知れんな。ただあやつは王都に来たがらんからのぅ、様子見には来ないじゃろ多分。 しかし随分と色々巡って来て、知り合いも増えたもんじゃわい。地球人たちに紹介し始めてからまだそんなに回数やっとらんのじゃがな。まぁでも、これからもワシらの世界を地球に届け続ける内に、また新しい顔をお主らに見せられるかも知れんのぅ。 見てくれてありがとうなのじゃ、また来年もよろしく頼むぞ！おつカブール～！