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閃光のミラージュ 番外編 【静と動の書き初め】
新年の朝、畳の香りがまだ冷たい部屋に満ちていた。 劉妃は正座し、白い書き初めの紙に向き合う。 細身の筆を取り、ゆっくりと息を整え、いつも通りの“書”を置いていく。 墨は静かに紙へ染み、線は美しく、手元は迷いがない。 それは完成された「正しさ」の書き初めだった。 だが、劉妃はふと筆を止める。 胸の奥で、小さな違和感が揺れた。 ――これで、本当にいいのだろうか。 次の瞬間、空気が変わる………。 彼女の手にあるのは、もはや筆ではない。 巨大な書き初めの紙が床いっぱいに広げられ、劉妃は大きな筆を握り、立ち上がる。 踏み込み、振り下ろす。 墨が弧を描き、力強い一画が紙を震わせる。 静寂よりも速く、ためらいよりも強く。 そこにあるのは、美しさより意志だった。 普通の書き初めは「整える心」。 巨大な書き初めは「貫く覚悟」。 劉妃は二枚の紙を見比べ、そっと微笑む。 静と動――どちらも、自分。 そう確かめるように、新年の一歩を踏み出した。 今年もまた、 彼女は“限界の向こう側”に、迷わず筆を振るう。
