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強襲揚陸《サンタ作戦》 ――あきつ丸・甲板から始まる夜

冬の海は静かだった。  月明かりに照らされて、  帝国陸軍強襲揚陸“船”――あきつ丸の甲板が浮かび上がる。  格納庫扉は開放され、  甲板の中央には、赤い機体が鎮座していた。  HH-53CJ《セント・レッド・ジャイアント》。  巨大なローターはまだ止まっているが、  機体の存在感だけで、周囲の空気を圧している。 「……準備、順調です」  富士見二等軍曹が、チェックリストを片手に報告する。 「空挺団、レンジャー、偵察班、全員搭乗可能。  プレゼント袋も積載完了。  ――銃は全員携行、セーフティ確認済みです」 「よろしいです」  応えたのは、  おんぼろジープの運転席に座る、ミニスカサンタ姿の士官。  ブロント少尉だった。  赤い帽子、白い縁取り、だがその姿勢は完全に軍人だ。 「今日は撃ちません。  ですが、撃てる準備は万全に」 「……クリスマスでなければ即却下案件です」 「だからクリスマスなのです」  ブロント少尉は、にこりと笑った。 「空軍は?」 「レーダーで追跡中ですが、  “確認できない未確認飛行物体”扱いだそうです」 「海軍と海兵隊は?」 「見なかったことにする、と」 「米軍は?」 「……楽しそうだな、とのことです」 「全軍一致ですね」  ローターが回り始める。  重低音が甲板を震わせ、  白い息が夜に溶けていく。 「発艦します」  ジープが前進する。  そのまま、ヘリの後部フックにワイヤーが掛けられ、  ジープごと吊り下げられた。 「少尉、改めて確認しますが……」  富士見軍曹が言う。 「これは“追跡と警戒”任務ですよね」 「ええ」  ブロント少尉は、空を見上げた。 「サンタと橇役が飛ぶ以上、  追跡しないわけにはいきません」  次の瞬間。  セント・レッド・ジャイアントは発艦した。 機内 ―― 赤で埋まる空間  機内は、異様な光景だった。  左右のベンチに、  サンタ服の兵士たちがぎっしりと座っている。  30名以上。  全員がフル装備だが、銃口は床へ、  誰一人引き金に指をかけていない。  足元には、  赤い袋、緑の箱、金のリボン。 「……なんでこうなった」  誰かが小声で呟く。 「徴募されたときは、  “クリスマス限定任務”って言われただけだった」 「まあ、銃撃戦じゃないだけマシだ」  ブロント少尉の声が、機内に響く。 「各員、再確認。  武装は携行のみ。  今日は使わない」  全員が即座に頷く。 「プレゼントは子供優先。  我々は――」  少尉は、ほんの一瞬だけ間を置いた。 「……見守るだけです」 降下 ―― 夜空に咲く赤  ハッチが開く。  冷たい空気とともに、  雪原が眼下に広がった。 「空挺班、降下!」  最初に飛び出したのは、  空挺サンタたち。  パラシュートが開き、  夜空に赤い花が咲く。  続いて―― 「レンジャー班、ラペリング!」  ロープが垂れ、  レンジャーサンタが滑り降りる。  動きに一切の迷いはない。  武器は体の一部のように安定している。  地上では、すでに――  エンジン音。  偵察サンタのバイクが、雪原を疾走していた。 「前方クリア。  非戦闘員のみ確認」 「了解」  そして最後に。  ホバリングするヘリの影から、  おんぼろジープが降ろされる。 「陸軍空挺、ブロント少尉。  地上到達」  ブロント少尉は、ジープを走らせた。  サンタ服のまま、堂々と。 「……世界は今日も平和ですね」  富士見軍曹の声が、無線に混じる。 「少尉、これは本当に“警戒任務”ですか」 「ええ」  少尉は、前を見据えたまま答えた。 「プレゼントが無事に届くかどうかを、  警戒しています」  夜空から、次々と降りてくる赤い影。  誰も銃を構えない。  誰も敵を探さない。  彼らが最初に手に取るのは――  プレゼント袋だった。  セント・レッド・ジャイアントは、  静かに高度を上げる。  その下で、  サンタが大量発生していた。

さかいきしお

コメント (15)

999fun
2025年12月24日 12時38分
Anera
2025年12月24日 12時06分
ippei

明後日のお題「そり(C-2、LCU)」

2025年12月24日 11時22分
翡翠よろず
2025年12月24日 11時06分
成年自由党
2025年12月24日 11時04分
ai大好き1192
2025年12月24日 10時19分
トカゲゲゲ
2025年12月24日 10時14分
えどちん
2025年12月24日 10時09分

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