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聖夜前のサイバー・タクティクス
雪が舞い散る冬の街は、クリスマスのイルミネーションで彩られ、人々で賑わっていた。 「ちょっとアンジェラ!もう少しゆっくり歩いてください。この買い物袋の量、見てます?」 若菜 栞少尉の抗議に、アンジェラ・ミカエラ・ブロント少尉は「おっと」という顔で振り返った。 「あはは、すみません栞!つい歩くペースが任務っぽくなっちゃいました。でも見てくださいよ、この街の活気!戦場とは大違いで、なんだかワクワクしますね!」 アンジェラは白いファーのコートを翻し、金髪のポニーテールを揺らして笑った。 隣を歩く栞は、自身の茶色のウェーブヘアを直しつつ、呆れたように微笑む。 「相変わらず元気ですね。あなたの体力はどうなってるんですか」 二人が玩具売り場を通りかかった時、アンジェラの足がピタッと止まった。特設コーナーのガラスケースに、一際メカニカルなデバイスが展示されていたからだ。 「……ねえ、栞。あれ、見てください。最新のサイバーアーム型デバイスですよ。えっ、これって我々の訓練機より精度高くないですか? 開発チームの極秘プロトタイプが流出したのかもしれませんね……」 アンジェラは目をキラキラさせ、ガラスケースに顔をくっつけんばかりに覗き込んだ。 「『これを使えば君もストリート・サムライ』……? なるほど、サムライ級の反射神経を要求する訓練機ということですね。面白いじゃないですか!」 「アンジェラ、あれはただのゲームですよ……」 栞の制止も耳に入らず、アンジェラは「軍人として、この性能は見極めておかないと!」 と謎の使命感に燃え、コートを栞に預けて筐体の前に陣取った。 「よーし、システム起動!殲滅開始ですよ!」 口調は丁寧なままだが、コントローラーを握った瞬間、その目つきはガチの「エース少尉」に変貌した。 「そこっ! 甘いですよ、右の増援も見えてます!」 「COMBO!!」「MAX SCORE!!」 正確無比なトリガーハッピー。 リロードの瞬間すら見えないほどの神速プレイに、周囲の子供たちが「お姉ちゃん、やばい!」「最強のサムライだ!」と色めき立つ。 「ふふん、このアルゴリズム、なかなか攻略しがいがありますね!」 楽しそうに、けれど本気でハイスコアを叩き出すアンジェラの姿を、栞は大量の荷物を抱えて見守っていた。 「……はぁ。もう、あの子ったらどこでも全力なんですから。でも、あんなに楽しそうなら、まあいいですね」 ゲームセンターを制圧(?)し、圧倒的なスコアを残した二人は、落ち着いた雰囲気のカフェにいた。 「ね、言った通りでしょう? ここのココア、最高に美味しいんですよ!」 アンジェラは満足げにココアをすすり、口の端に泡をつけたまま笑った。 「はいはい、杏樹。口に泡がついてますよ。……でも、さっきのゲーム、本当に凄かったですね。子供たち、本物のヒーローを見る目をしてました」 「でしょう? でも、あのデバイスのフィードバック、もう少し改善の余地があると思うんですよね。明日、開発部にレポート出しましょうか」 「……アンジェラ。今日は『オフ』。レポート禁止です!」 「あはは、そうでした! すみません。じゃあ、次はこのショートケーキの『攻略』に移りましょうか、栞!」 二人の楽しげな笑い声が、温かなカフェの中に響き渡った。
