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こたつ・バッテリー・ラン:美学の逸脱
帝国自衛陸軍広報分室の一角。軍の執務室の床に畳が敷かれ、中央にはこたつが鎮座していた。 外の冷気を完全に遮断した、その暖かく非日常的な空間は、対カオス分室の隊員たちに「つかの間の平和」をもたらしていた。 轟・アンジュ・ブロント少尉は、こたつ布団に顔を半分埋め、至福の吐息を漏らしていた。 「ぬっ……!この**『こたつ』なるものは、なんと「人類の進化における最高の叡智の結晶」**でありますか!これが…暖かさ!これこそが……平和!」 向かいに座るリゼット・ジェイミー・ハーゲン少佐は、スマートグラス越しにタブレットを操作しながら、淡々とみかんを食べている。 紫ががかった黒髪の上には、三毛猫が鎮座しているが、気にする様子もない。 「少尉。その発言は、寒さを媒介とするカオスを過剰に賛美する非論理的なものだ。しかし、この温度は、脳活動の効率性を0.03%高めるデータがある」 富士見二等軍曹は、湯呑を両手で包み込み、冷静な顔で呟いた。 「少尉。それ以上緩むと、せっかく鍛えた体幹が溶けますよ」 その一言が、轟少尉の**「美学」**を呼び覚ました。 「むぅ……!軍曹の言う通り!この心地よさは、私にとって**『体幹を緩める美学破壊兵器』**である!このままでは、冬の寒さに屈した軟弱者になってしまう!しかし、外は寒い!外はカオスに満ちている!」 轟少尉は、**「こたつ」と「運動」**のジレンマに苦しみ、こたつ布団の中で足をバタつかせた。 その時、彼女の目に、分室の隅に置かれた予備のこたつと、防災用の大容量バッテリーが飛び込んできた。 「ドゥオオオオン!!閃きました!**『美学』は『論理』**を超越するのです!」 轟少尉は猛然と立ち上がると、予備のこたつを改造し始めた。天板を外し、布団を体に巻き付け、こたつを背負える形にする。 そして、ミニスカートの軍服から伸びた生足を出し、まるで直立した巨大な亀のような姿になった。 「若菜少尉!この大容量バッテリーの電力を『こたつ』に供給し、温かさを保ちます!そして、この温かいこたつを背負い、私はランニングを行う!これなら**『暖かさ』と『美学』**を両立できます!一石二鳥ドゥオン!」 彼女はバッテリーを胸に抱え込み、そのまま廊下へと飛び出していった。改造こたつとミニスカートの生足が、廊下を駆け抜ける度に、みょっ、みょっ、と伸び縮みする。 「少尉!何を……!」富士見軍曹が目を見開く。 リゼット少佐は、走り去る轟少尉をスマートグラス越しに分析しながら、冷静に呟いた。 「少尉のランニングによる運動エネルギーは、こたつを温める電力消費に全く追いつかない。私の論理的解析もだが・・・・。『暖かさの美学』と『体幹トレーニングの美学』の融合という点では、極めてカオス的、かつ非論理的だ」 若菜少尉は、既にスマホを構え、廊下を爆走する**「こたつバッテリーランナー」**を連写していた。 「これは**『こたつバッテリーラン』**という、新たな広報素材になりますね!シャッターチャンス!」 こうして、対カオス分室の休憩室は、一瞬にして**「暖房付きの非効率移動式電力発電所兼トレーニングロード」**へと変貌した。
