1 / 4
白黒のスイーツ通信:南方と異世界をつなぐスイーツ
休日のオフィス。 ブロント少尉は書類の山から顔を上げ、白黒に滲んだ一枚のFAX用紙をそっと持ち上げた。 「うん、チェルキーちゃんの国のスイーツか。ちょっと変わってるけどおいしそうだね。 しかし、オリジナルの鮮やかさはすべて失われ、 グレーの濃淡だけで構成された“謎の甘味”になっていた。 「お菓子は同等なのに、通信はやっぱり良くないのかな」 そのころ。 調理研究室の静けさを破るように、机の上の《魔法硝子盤》がふっと明滅した。 届いたのは、少尉からの甘味写真——だが、相変わらず“白と黒の世界”に落ちている。 チェルキーは軽く肩をすくめて笑った。 「また色が抜けちゃったんだね。あっちは“光”しか通らない仕組みなのかな……でも——」 緑色のポニーテールを揺らしながら、彼女は硝子盤に指を添える。 「色なら、料理が覚えてるよ」 指先から淡い金色の魔素が滲み、白黒のプリン・ア・ラ・モードに絡みつく。 チェルキーの目が細められる。視線は、まるで食材の魂そのものを覗いているようだった。 「カスタードの焼き色……この明度なら卵とミルクは比率2:3、砂糖は地球側の白砂糖。 それに、この果物の粒感——たぶんイチゴとキウイ。うん、これは綺麗な色のはず……」 硝子盤に淡い色が戻り始める。 白だったプリンに、濃い黄金色が溶け込む。 影の層が深まるにつれて、艶のあるチョコソースの黒が浮かび上がる。 果物は赤、緑、橙が鮮やかに重なり……最後に生クリームが淡く輝いた。 まるで白黒映画に突然色が戻る瞬間のように、硝子盤の上のスイーツは本来の姿を取り戻した。 チェルキーは満足そうに微笑む。 「ふふっ。少尉ちゃん、やっぱりあなたの世界のおやつは色が綺麗だね。 光じゃ伝わらなくても……食材は“形”の中に全部残してくれてるんだよ」 そして、魔法硝子盤にそっと手を添えて言った。
